ガタン、ゴトン。ガタガタ。

列車の中は観光客や帰省者で賑わっている。私たちは列車の中の食堂車に居た。
食堂車にいると言っても食事は既に済ませており、一息ついている所だ。

皆は満腹のようだけれど、私の胃袋はまだまだ満足していない。
その私の貪欲な胃袋に命令されるがまま、少し前に追加注文を取ったところだ。
それを隣で見ていた花京院が、私に珍獣でも見るような眼差しを投げる。

「さっきあれだけ食べておいて、まだ食べるのか。相変わらずよく食べるな」
「まだ食べたりないって胃袋が言うの。空腹に勝る敵っていないからね」

わざとらしく腹部を悲しそうに見つめて、ぽんぽんと叩く。
うん、大丈夫。出てるのは胃の分だけだ。

「腹を叩くんじゃない、女の子だろう?」
「失礼しやしたー。あ、そういえばあの子どこいったの?」

まるで自分の母のような花京院を軽くあしらって尋ねる。
きょろきょろと辺りを見渡すが見当たらない。“あの子”とは勿論可あの十二歳の家出少女のことだ。

追加注文してからそれほど時間が経っていないのに、料理が運ばれてきた。
馴れた手付きで食事を給仕するウェイターに会釈をしてから食事に入る。
シンガポールからどんどん離れていく移りゆく景色を眺めて思い出したのだ。
食事を終えたアヴドゥルさんが一度左右を見渡した後に教えてくれた。

「列車の出発間際までシンガポール駅にいたんだがな。
 きっとお父さんとの約束の時間が来たので、会いに行ったのでしょう」

そうじゃな、と相槌を打つジョセフさん。
すかさずポルナレフはこの二人に向かって手をひらひらと左右に振る。

「あのガキどうもお父さんに会いに来たってのが胡散くせーんだよな。ただの浮浪児だぜ、ありゃあ。
 ……ま、いないとちょいと淋しいような気がするが。なあ、承太郎」

「…………」


分かりづらいだろうがここで承太郎は何も言わずに、口端を上に吊り上げた。
表情は読み取れないがおそらく、そうだな、と肯定しているのだと思う。
彼の向かいの席に座る花京院はグラスを持ち上げて喉を潤す。

「しかしシンガポールでのスタンドだが、まったく、嫌な気分だな。
 僕そのものに化けるスタンドなんて……」

「ホテルを出る時からもうすでに変身していたらしい」
「言葉遣い悪くてすごい下品なんだよ。本物とは正反対!」

承太郎は人差し指を立てて言い、私は花京院の隣で力説する。
大人しくしてればあまり分からないが、雰囲気も全然違うのだ。
と、花京院はじっと一点を見つめる。承太郎の皿の上だ。

「そのチェリー食べないのか?
 がっつくようだが僕の好物なんだ……くれないか?」

「ああ」

サンキュー、というと皿の上のチェリーを取って口に運ぶ。
ここからは歴史的名場面とも言われる、チェリーをレロレロするのだ。

「レロレロレロレロレロレロレロレロ」

私と承太郎は顔を見合わせて何とも言えない複雑な表情をした。
花京院がチェリーを食べているので、私も運ばれてきた料理を再び食べ始める。
もぐもぐと口を動かしている私を見ていると、そこで承太郎が何か思い出したようだ。
ああ、と小さく呟いてから再び口を開く。

「そーいやお前、記憶はどうだ?何か思い出せたか?」
「記憶?……いや、相も変わらずだよ」

料理が口の中に入っているので手で口を隠してそう返事をする。
一瞬何のことだっけ、とか思ってしまった。危ない、危ない。

「はァ?記憶がどうって……、記憶喪失なのか?」
「レロレロレ……僕も初耳だ」

ポルナレフとレロレロの途中で花京院が食らいついた。
ああそっか、この二人にはまだ話してなかったっけっか。
そこで要点をまとめつつ、出来るだけ簡潔に説明をする。
空条家にお世話になる前に事故にあったところあたりから、今に至るまでを。
説明が終わると二人は切なげな表情で私を見る。

「なんつーか……気の毒だな。でも家族と自分の昔のことを忘れるなんてな」

家族、という点で反応したのか伏目がちに答えるポル。
一方花京院は気に掛けつつも、レロレロせずにはいられないようだ。

「でも部分的に記憶がなくなるなんてあるんだな、レロレロ」
「なんだか私の身の上事情よりもチェリーのほうが大事にされてる気がする」

会話の途中に入るレロレロになんだか存在価値として何か負けたような気持ちになる。
勝ち負けとかそんなものはないのだけれど。

二人に話して、これで全員が私が記憶喪失だということを知ってもらった。
それはつまり嘘を吐いていることになる。
そのことに対して胸が痛くなり、申し訳ない気持ちもこみ上げてきた。















20














長い列車の旅は終わりを告げ、次はインドの旅へとバトンタッチ。
列車は徐々に速度を緩めていき、インドのカルカッタに到着するようだ。
インドの首都カルカッタは人口が約千四百万人、浮浪者数の数二百万を超す街らしい。

「アヴドゥル……いよいよインドを横断するわけじゃが……。
 その、ちょいと心配なんじゃ。いや、『敵スタンド使い』のことは勿論だが」

人の走るの速さくらいまで減速したのを窓から確認する。
席を立ちながら、言葉を濁すように、というか心配そうに喋るジョセフさん。
言いたいことはすごく分かる。テレビで得た情報ぐらいでしかインドを知らない。


「わしは実はインドという国は初めてなんだ。
 インドと言う国は、こじきとか泥棒ばかりで、カレーばかり食べていて、熱病かなんかにすぐにでもかかりそうなイメージがある」

「俺、カルチャーギャップで体調崩さねェか心配だな」


身震いをするように両手を組むポルナレフ。
体調は崩さないと思うけど、私も心配だ。
そんな私たちの不安を一切拭うようにアヴドゥルさんは答える。

「それは歪んだ情報です。心配ないです。皆素朴な国民のいい国です、わたしが保証しますよ。
 さあ!カルカッタです。出発しましょう」

そう言って駅から出ると待ち構えていたように、私たちに一斉に群がる国民の皆様。
財布とか貴重品はスラれないように大事に持っていることを確認して進み出す。


「バクシーシ」
「バクシーシ!」



わっと歓声のように一斉に沸き上がった。
えーと、原作の記憶を辿ると、恵んでくれとか金くれとかって言っているんだよね。
施し、もしくは喜捨って意味だった気がする。
ある程度の覚悟はしていたけど、怖いというのが素直な感想だ。


老若男女のインドの方々に揉みくちゃになりながらも、はぐれないように進む。
子供の物乞いが多いのは気の所為だろうか。神聖視される牛が道路をノシノシ歩いている。
そのためか路上には牛の糞が至るところに落ちている。
うーん、好き好きなんだろうけど、私はどうも苦手だ。


『日本人にはあまり合わないだろうね』
「びっくりした。うーん、一概に言いくるめるのもどうかと思うけど、私は同感」


いきなり出て来てどうしたの、と肩の上の兎に問いかける。
兎の答えを聞く前にタクシーに乗ろうとしたジョセフさんに目がいった。
ああ、牛が車の前に居るもんだから、と運転手に言われて乗り損ねた。


、誰彼構わずにお金渡しそうだもん。流石に僕の出番かなあって』
「失礼なっ!……あれ、周りの人が離れていく……何で?」
『ブツブツ独り言の多い怪しい女の傍には、誰だって近寄りたくないよね、うん』


その所為か。バクシーシと言う人の中でも、どこか警戒しつつ声を掛けてくるのは。
いや寧ろみんな離れて行ってくれた方が気が楽だ、と思う。
アヴドゥルさん除く一行はこの歓迎、もしくは洗礼とも言える行為に戸惑っている。


「ア、アヴドゥル……これがインドか?」


ジョセフさんが疲れ切った表情で尋ねる。
ポルナレフは肩に鼻水を付けられ、花京院は冷や汗を掻く。
よく見たら承太郎はあまり表情に変化が見られない。彼は慣れたのか。
彼の順応性の高さに敬意を表しつつも、私も無言で訴える。

「ね、いい国でしょう。これだからいいんですよ、これが!」

国を見渡すように得意げに笑みを浮かべるアヴドゥルさん。
その良さが私にはさっぱり理解できません。バクシーシ恐怖症になりそう。










さて所変わりまして、とある飲食店。
インドと言ったらチャーイでしょ、ということで飲んで見た。

「おいしーっ!何杯でも飲めるかもー」
『ミルクティーみたいだね、でもあまり飲むと太っちゃうよー?』

お店自体も綺麗だし、ゆっくりとくつろげる感があっていいなと思った。
兎は鼻をヒクヒクさせて至極当然のように私の膝の上に乗って言う。
私は兎をひょいと抱えて床に下ろしてジト目で口を開く。きっとへの字になってる。


「うるさいなあ、ペットの立ち入り禁止だよ」
『自分の精神をペット同然に扱うなんて大した神経だね』
「失礼、見た目がどうみてもペット同然だから」

「おいおい、喧嘩はよさないか」

何よ何さの火花が散らされる前に、アヴドゥルさんが仲裁に入る。
私と兎はアヴドゥルさんには頭を下げて謝る。お互いには謝らない。
承太郎も後もう少し言い合いが続いていたのなら、うっとおしい、と言っただろう。


「まったくお前たちは…………」


苦笑して私と兎を交互に見るが、いつものことですと花京院が肩を叩く。
そこでポルナレフが静かに席を立ってどこかに行くのを目で見送る。
アヴドゥルさんは話の続きをするため、ごほん、と咳払いを一つ吐いた。


「ジョースターさん、要は慣れですよ。この国の懐の深さが分かります」
「俺はなかなか気に入った。いい所だぜ」

「マジか、承太郎。マジに言ってんの?お前」
「私はまだ分からないなあ」


早くもインドを気に入ったと言う承太郎に驚くジョセフさん。
花京院も、もう少しで慣れることができそう、と答えるとまたもジョセフさんが驚いた。
この男子校生組は順応性が高いらしい。素晴らしい。
私はまたチャーイを一口飲む。本当においしい。







そんな会話を繰り広げていると、ガシャン、と物が割れる音がした。
続いてポルナレフの怒鳴るような叫び声が聞こえた。

「なっ、なんだァーコイツは!?ち、ちくしょうッ!」

私たちは顔を見合わせる。声は移動しており、入り口からも聞こえた。
すぐさま立ち上がって入り口へと走るとそこには、チャリオッツを出したポルナレフがいた。
つまりは戦闘態勢。何やら取り乱しており、息が上がり微かに汗を掻いている。


しかし、すっと冷静さを取り戻し、真剣な面持ちで呟く。

「ついに…………ついに!やつがきたゼッ!承太郎!
 お前が聞いたという鏡を使う『スタンド使い』が来たッ!」

ぴくりと承太郎が反応する。他のみんなも目を瞠って彼を見る。


「俺の妹を殺したドブ野郎ォーッ!ついに会えるぜ!」


怒りと復讐の炎に燃えるポルナレフ。
拳を握り締め、心の底からこみ上げる何かに目をギラギラと輝かせていた。

「ジョースターさん、俺は、ここであんたたちとは別行動をとらせてもらうぜ」

はたと一斉にポルナレフをみつめた。

彼は今怒りで頭に血が上っている。
しかし、そうでなくても彼は自分の実力を過信しているところがある。
確かに実力も、それ故の自信は勿論ある。しかしその実力に驕っている面が少々あるのだ。
ポルナレフは続ける。


「妹の仇がこの近くにいると分かった以上、もうあの野郎が襲ってくるのを待ちはしねえぜ。
 敵の攻撃を受けるのは不利だし、俺の性に合わねえ」

こっちから探し出してブッ殺すッ!と吐き捨てるように言う。
そして、以前シンガポールではゴミと誤解された荷物入れを背負って歩き出す。
間髪いれずにジョセフさんは言う。


「相手の顔もスタンドの正体もよく分からないのにか?」

「『両腕とも右手』と分かってれば十分!それにヤツの方も俺が追っているのを知っている。
 ヤツも俺に寝首をかかれねえか心配のはずだぜ」


振り返りあざ笑うように言う。そこにアヴドゥルさんの言葉が入った。
その会話を見ながら、私としてもポルをこのまま行かせていいものか考えている。
そこに兎が肩の上に乗る。先程まで兎の存在を忘れていた。


『止める?止めない?どーっち?』

小さな声だが歌うような口調が脳内に響いた。
驚いたが兎が前片足を上げて、しぃ、と合図をしたので口を噤んだ。
しかし、兎のこの空気を読まないような口調には一瞬嫌悪感を抱いた。

「止めない、ってかこうなったポルを止められないよ。
 結果的にアヴドゥルさんを助けられればいいわけだから、頑張る」

何をどう頑張るかは言わない。
これは声に出さなかった。心の中での会話だ。


『うん、わかった。僕も出来るだけ協力する』
「ありがと、深紅の杖(カーディナルワンド)


ここで止めなくてもアヴドゥルさんの命には別状はないが。
私たちは笑みを交わすわけでもなく、ふとアヴドゥルさんとポルナレフを見る。

「なんだと?」

アヴドゥルさんだ。ポルナレフは彼の手を振りほどいた。
ほんの数秒ほどの会話だったが話が少し進んでいたようだ。


「俺に触るな。香港で運よく俺に勝ったってだけで、俺に説教はやめな」
「きさま!」

今にも殴りかかりそうなアヴドゥルさんを制して、私はポルの前に立つ。


「運よくって……情けないなあ、運も実力のうちでしょ。わかった、もう止めないから行きなよ」


しっしっ、と追い払うようなジェスチャーをする。
ポルナレフはそこからまた何か言おうとしたが、クソッと吐き捨てて行ってしまった。

つい頭にきて言ってしまったがこれでは嫌われてしまって当然かな。胸が痛い。
折角仲良くなれたと思ったけど、と思い悲しさと自分の短気さに嫌気がさした。
はあ、と溜息を吐くと視線がこちらに集中する。

……」
「彼、こうなったら聞きませんから。行かせるしかありません」


ジョセフさんが苦虫を噛んだような複雑な表情を浮かべた。
うーん、とこちらも複雑な、何とも言えない表情をしているだろう。

でもそれよりも複雑な心境なのはアヴドゥルさんだ。
私の視線に気付くとそれを逸らして、苦しそうな表情になる。


「幻滅しました、あんな男だったとは思わなかった」


あんな男だったとは……と何度も呟くように言う。
承太郎も花京院も何も言わず、ただ立っている。


「……でも今、ポルが一人でいるのは敵の思うツボです。追い駆けましょう」
『この辺りに敵が潜んでいるのは間違いないわけだしさ』

「……ああ、そうじゃな。アヴドゥル、行こう」


そうですね、と返事をしてポルナレフの後を追う。姿は見えない。
私たちは各自でポルナレフを探すよう、一旦分かれた。
そして見つけ次第援護をするのだ、ということだ。










ようやくポルナレフを見つけた時には、アヴドゥルさんが彼を庇っていた。
まだ彼らの所に行くには距離があるがまず一旦呼吸を整える。
膝に手を付いて、肩を上下する。大分走り回ったのでなかなか整わない。

汗を拭いながら状況を把握する。つまり、この場にはホル・ホースとJ・ガイルがいるわけだ。
ホル・ホースの弾丸はアヴドゥルさんなら容易く焼き熔かせる。
しかしまだJ・ガイルのスタンドの正体には気付いてない。
だから、私があの水溜りの水を消せば、アヴドゥルさんは途中合流にならなくて済む。
一分一秒を争う時間とのの闘いだからか心臓がバクバクしてる。


頬を叩き、わざとらしいほど元気な声を出して自分を奮い立たせる。

「よし!行くよ、カーディナル!」
『あいあいさー』

勢いを付けて一歩踏み出した時。
まさに、アヴドゥルさんがポルナレフをぐい、と押し退けた今。

突然の胸の痛みに襲われた。
ぎゅう、と握りつぶされそうなこの痛みに耐えかねて声が漏れる。


「う、ッ……ぁ……」
?どうしたのッ?胸が痛いの!?』

今ホル・ホースやJ・ガイルに気付かれたら援護しにくい。
気付かれてなるものかと声を押し殺す。

ぎゅう、と心臓を握り締められているような強く耐えようもない痛み。
その場に膝を付いて、前のめりになり心臓の上をぐっと握り締める。
深紅の杖に心配されるが答えることも出来ずにただ唸るだけ。
それよりもここからじゃあ射程距離に入らない。どうしよう!


そこで花京院が建物の影からアヴドゥルさんとポルナレフを見つけたのを見た。
アヴドゥルさんは『魔術師の赤』を出す。後ろの水溜りを振り返る。
弾丸に頭を打たれて背中からは血を流して倒れた。

「あッ……ぐぅ、っ」
『しっかりして、今は周りよりも自分のことを……!』


兎は心配そうに、右往左往して私の様子を伺う。

ここで彼は死なないのは分かっている。
しかし、私が物語に干渉している以上、何が起こってもおかしくないのだ。
目頭が熱くなる。零れ落ちる涙を止めることは出来ない。


痛みなんかじゃない。悲しさと悔しさで零れるんだ。




『…………ねえ、この光景をみて何か思い出さない?』


兎の声は先ほどと打って変わってとても落ち着いていた。嫌など程に。
零れる涙を乱暴に拳で拭いながら兎を見る。

「こ、んな時に……何言って……!」

胸の痛みは収まってきたので苛立ちを隠さず答える。
それでも聞かれた通りその光景を視界に入れて無意識のうち考えてしまう。



血溜りをつくって倒れるアヴドゥルさん。
わなわなと体を震わせるポルナレフ。
駆けだす花京院。

銃を構えるホル・ホース。
水面、もしくは鏡面に映るJ・ガイル。


そして膝をついて、ほぼ四つん這いのような姿で前を見る私。
私の前でころんとぬいぐるみのように横たわる白い兎。


「ぬいぐるみ……」

引いていく痛みと共に回復する思考。
一人呟くと脳裏に雷が落ちるように何か、映像が駆け巡った。


ぬいぐるみの兎、血溜りの中の人、私


映像を見て何かを思い出しそうになり、また、何かが繋がりそうになった。
しかしそこで言いようのない恐怖感に襲われて考えたくなくなった。

「やだ……!何も、思い出さないよ……」

自分でも驚くほど身体も、声も震えていた。
そう答えると兎は起き上がって、そう、と悲しげな表情をした。


と、そこで花京院がポルナレフを車に引っ張り込み、走り去って行った。
ホル・ホースは銃口から立ち上る煙をふっ、と吹き消してどこかに向かって歩きだす。
だからその場には横たわるアヴドゥルさんが残った。


立ち上がってアヴドゥルさんの傍まで歩く。
歩こうとするが、数歩歩いた所でまた心臓を握られるような痛みが走った。

先ほどのも物凄い痛みだったが、今走る痛みはその倍以上に痛く、立っていられない程だ。


思い切り叫びたいのに、苦しくて声も出ない。
頭が真っ白になり気が遠のくような、そんな気がした。



――――――ッ!』


夢うつつにまどろむ意識の中、深紅の杖が私を呼ぶような声を聞いた気がした。














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2010/03/02