多分これは夢なんだと思う、と冷静に考える。 世の中にはこのように夢の中で夢だと思う人がいれば、自分の意思で空を飛ぶ人もいる。 ましてや自分で夢の中をあれこれ自由にいじくったりする人がいるわけで。 現実ではないこの場所で、こんなことを考えているのだからやはり夢なんだろう。 夢の中の私は視界が低いことから、多分今より十歳弱幼い頃だ。 身体の自由は利かないので、まるで映画の内容を実際に体験しているような、そんなドキドキ感があった。 幼い私の目線で楽しそうに歩きながら、周囲を景色を楽しむ。これから何が始まるのか楽しみだ。 何しろ夢の中で意識があるなんて生まれて初めての体験だ。 私は大体五、六歳くらいで白くて可愛らしい服を着ていた。 小さな私は両手で何かをぎゅと強く抱えている。 大事に持っているみたいだから、きっと大切なものなんだろう。 小さな私はどこかに遊びに行く途中らしく、一人大きな声で歌っている。 すれ違うお年寄りや、女子学生は微笑ましそうに見つめて通り過ぎていく。 私が歩いているのは車通りの少ない道で民家がちらほら建っているものの、店舗などの建物も少ない。 都会、町中とは少し離れたようなそんな所謂田舎という場所だ。 楽しそうに歌っているが、ぴょん、と縁石に上って平均台を歩くように両手を広げて歩く。 しかしその足取りはふらふらと安定せず、おぼつかない足取りで歩いている。 それではいくら車通りが少ないとはいえ危ない。 「―――あ!」 バランスを崩して縁石の上から歩道のアスファルトの上に落ちた。。 落ちたといっても、転んだわけではなくただ着地したわけだが。 その際に大事に持っていたもの―――ようやくそれが白い兎のぬいぐるみだと確認することが出来た―――を車道に投げてしまったのだ。 大きさは本物よりも小さめで、その兎を見て何か違和感を感じたがよくわからなかった。 「うさぎ!いまいくよ!」 気分は夕方に放送している特撮のヒーロー番組のヒーローだ。 兎のぬいぐるみに話しかけるように大きな声で、且つ、楽しそうに言う。 そういえばあの頃はヒロイン番組もヒーロー番組も大好きだったな、と思って笑う。 よいしょ、とテレビで見たお姫様のようにスカートの裾を上げて縁石を乗り越える。 乗り越えて車道に出ると車道に転がる兎のにぐるみを拾い上げようとしゃがむ。 「危ないっ!!!」 何が起きたのか分からなかった。しかし、しゃがんだ所で、私は思いきり突き飛ばされた。 突き飛ばされた拍子に、縁石にぶつかって道路の脇に転がる。 キキーッという車のタイヤが地面と擦れる音と、 ドン、という衝突音が聞こえた。 それに続いて、誰かの悲鳴が響き渡る。 幼い私はぼう、と夢心地な真っ白になった頭で必死に目の前の現状をみつめる。 先程歌を歌っていたときに微笑んで通り過ぎた女子学生が、車とぶつかり目の前で血を流して倒れているのだ。 車道に出た私を見て女子学生は瞬時に駆け出して、私を庇ってくれた。 悲鳴を上げていたのは一緒に下校していた友人で、駆け寄る。 運転手の男性がすぐに降りて女子学生に駆け寄り、すぐに携帯で電話を掛ける。 一緒に乗っていたと思われる女性も降りてきて私に駆け寄る。 助けてくれた女子学生は、小さな血溜りをつくり気を失っていた。 瞬間、景色が血の色以外白黒になったように見えた。 血の色は言うなれば鮮やかな紅。もしくは猩々緋色。 その血溜りにはあの白い兎のぬいぐるみが鮮やかな紅に染まりつつあった。 先程感じた違和感はこれか。 私が抱いていたごく普通の兎のぬいぐるみには、紅い色なんかなくて何も関係ないと思っていた。 しかし、徐々に紅い色を染み込んでいく兎のぬいぐるみをみて、自然に『彼女』を思い出した。 車から降りてきた女性は、心配そうに私の肩を抱いて尋ねる。 「大丈夫だった?怪我は?」 「うっ……あぁぁああああんッ、わぁぁ」 小さな私はただただ火がついたように泣き喚いているだけ。 突然の出来事で驚いたことと、突き飛ばされた際に身体を擦ったらしくその痛みだった。 今見ている過去の記憶は靄がかかるように、どんどん白くなっていった。 泣き声も救急車を呼ぶ声も何もかも遠のいていく。 そうだ、全部思い出した。 そして『深紅の杖』が白い兎の像を取っている理由。 このことを遠まわしに伝えていたこと。 最初の頃『深紅の杖』の目を直視出来なかったこと。 ようやく全部納得がいった。 確か、この時私は新しく買ってもらった服を着て、友達の家に遊びに行こうとしていた。 その時に誤ってぬいぐるみを車道に落としてしまい、それを拾うため車道に出た。 女子学生はそんな私を助けてくれ、怪我も幸い大事には至らなかったはず。 だけど私は親にこっ酷く叱られた記憶がある。 そして大事にしていた兎のぬいぐるみだが、『恐怖の思い出の品』となって捨ててしまったんだ。 しかし、この世界に来る前に見た夢には、兎ともう一人誰かがいた。 残る問題は猩々緋色の手をした誰かの正体だ。答えはもう掴みかけている。 21 白く包まれていった過去の映像の後、私はその場に立ち尽くしていた。 過去の映像は、夢での一種のフラッシュバックに、意識のおまけがついたものだと思っていた。 だから、すぐに目が覚めるだろうと思っていたのだが、目が覚めない。 それどころか、こんな狭いのか広いのかわからない白一色の場所に一人でいたらおかしくなりそうだ。 「こんなときに深紅の杖が居たらなあ」 あの喧しくも明るいスタンドはこんな時こそ恋しくなる。 こんなときこそ一緒に居れば百万力だ。 『呼んだ?』 ぴょこん、と頭の上に現れてそこから顔を覗かれた。 思わず驚いてペタンと尻餅をつく。そして何度も瞬きをする。 その驚いた反動で兎も手前に落ちるが、きゃー、と兎も頭から落ちて両手で受け止める。 「え、ちょ、何でッ?何でカーディナルがいるの?」 『居ちゃ駄目なのー?』 「いや、そうじゃなくて……」 全体が真っ白いから猩々緋色のその目は映えるというか、際立つ。 兎は鼻をヒクヒクさせながら楽しそうに答える。 『あは。ごめんごめん。 んー、その質問に答える前に、僕から質問。僕の像、の心の根っこの部分を思い出した?』 小さく首を傾げる仕草をする兎の頭をゆっくり撫でながら、私は頷く。 「うん、兎が前に言ってた質問の意味も理解したし、全部思い出した。 あ、でもひとつ分からないことがある」 『そのことに関して少し話しがあるの。でもその前に“何で僕がここにいるか”。 “ここはどこなのか”っていう疑問にお答えしちゃうよ』 兎は前足を持ち上げて後ろ足だけで身体を支える。つまり直立している。 この白い世界は何なのか、とか聞きたいことはたくさんあった。 しかし、私はただうん、と頷くと得意げに鼻を鳴らしてから口を開く。 『ここはの心の中。さっきは質問から逃げたから、悪いとは思ったけど逃げれない状況を作らせて貰ったよ。 は血に関して人の倍以上の恐怖を抱いてるから、助けるって言うのも変だけど、まあでもそうだね、助けにきたの』 悪いと言いつつも申し訳なささは微塵も感じられない兎。 「スタンドっていつからそんな便利なものになったの?ていうかあの胸の痛みも兎がやったのッ!?」 『便利っていうか、ご都合主義っぽいけど折角自我があるんだから、本体の成長を手助けしてもいいかなあって。 でも胸の痛みは偶然だよ、きっとストレスが原因じゃないかな。 慣れない世界での暮らしや戦闘で、精神的にも参ってるんだよ。 本体が危ない状況だから助けに来たよ。とにかく、心の中だから僕が居るわけなの』 淡々とした口調で話す兎に、ストレスだ血に関しての恐怖だと一気に言われてもなんのことか分からない。 確かに血は怖いと思う。でも、大抵の人は血は好きじゃないだろうし、得意でもないだろう。 私はよくわからない、と頭を抱えて一人問答する。そこでつん、と額を小突かれる。 『の心的外傷だよ。 さっき自分の目でみて思い出しただろうけど、大抵は思い出しただけじゃトラウマは克服出来ない。 無理矢理思い出させようとすると酷くなる場合だってある。 けど克服しないことにはこの先闘っていけないってことなんだけど……理解した?』 「うーん、一応」 生返事が気にかかったのか、ほんと?と聞き返されたが、頷いた。 スタンドの力は私の、本体の精神力に反映されているから、トラウマを抱えていると力の低下になってしまう。 トラウマを乗り越えて、強くなって欲しいと兎はいいたいのだろう。 『じゃあ続けるよー。 今、思い出しただけじゃあ克服出来ないって言ったけど、はもう殆ど克服出来てるんだよね。 思い出した時に恐怖心を感じてなかったじゃない?』 うーん、と先ほどのことを思い出して見る。 以前は血を見て取り乱したり、失神しそうになったりと血に対しての反応が明らかに酷かった。 そう思うと確かに、先程記憶を見た時は、兎に言われた言葉の意味を理解出来て喜びはしたが、怖いと思ったり取り乱したりはしなかった。 少なくてもフィーエバー戦の時のようには。 思い出して、助けられなかった人達を思い出し、嘔吐を催しそうになる。 それを堪えて兎に返事をする。 「うん、血が怖くないわけじゃないけど……意外と平気だった」 『でしょ、だからあとはが血を怖がらないよう努力するの。 ともかく精神力が強くならないと僕の力が活かされないからね。 さっきの映像では事故の瞬間しか思い出さなかったけど、あの女子学生は無事だったんだよ。 しかもお見舞いに行ったに何て言ったか覚えてる?』 私は首を左右に振った。 実はその事故後の辺りの記憶が曖昧で、よく覚えてないのだ。 覚えているのは助けてくれた女子学生は大事には至らなくて、無事退院して行ったということぐらいだ。 兎はその場に腰を下ろした私の膝の上に乗って教えてくれた。 『“怪我してない?無事で良かった、本当に良かった!”って泣きながら抱き締めて言ったの』 「え……?」 怒られたり、何か言われたのかと思ったのだが。 その女子学生さんは自分の怪我より、私の事をずっと気に掛けてくれたそうだ。 『思いきりぎゅーって抱き締めて喜んでたよ。 でも“兎のぬいぐるみをダメにしちゃってごめんね”ってしょんぼりしてた』 「…………」 ぽかん、と呆けてしまう。 その事故の時の記憶は嫌なものしか詰まっていない気がしていたから。 何だか今になって、その笑顔と抱き締められた感触を思い出した気がしてはにかんでしまう。 そうなんだ、あの時のお姉さんは自分が怪我をしたことより、私を気に掛けてくれたんだ。 『よーし、なんか心的外傷が克服されてきたねえ。 じゃあここで“ひとつだけ分からないこと”にお答えしましょー』 兎が嬉しそうに目を細めて、膝の上から降りる。 降りると言ってもやはり、辺り一面が白いからどこが地面かはわからない。 わからないけど私が座っているところを地面と考えていいようだ。 地面に降りた兎は、テレビのチャンネルが切り替わるようにぱっと姿を変えた。 そう、それはこの世界に来る前から見続けた夢に出てきた、兎じゃないほうの姿。 人型のスタンド。本体と同じ性別だから、女性の姿をしている。背は私の頭一個分程大きい。 頭部には何やらぐるぐると包帯か布のようなものが巻いており、唇しか見えない。 スタンドだから肌の露出というものは関係ないんだろうけど、殆ど布を身に付けていない。 そして左の胸元には一本のこん棒のマークが入っていた。 色は赤(猩々緋色と言うべきか)を基調としている。 「………………えーと、どちら様で?」 『これも僕、深紅の杖だよ。この話はややこしいからよーく聞いてね』 透き通ったこの可愛らしい声は、間違いなく深紅の杖のものだ。 私は首を縦に一度振る。 確かに、兎の姿から人型になった瞬間をみたわけだから彼女に間違いはないのだ。 でも、え?どちら様?と言いたくなるこの気持ちを分かって欲しい。 すると人型カーディナルは後ろを振り返り、何やら手招きをする。 『よし、じゃあこっちにおいでー』 「え?」 私を向いて発せられている言葉じゃないと思い、カーディナルが向いているほうを見る。 しかしそこには、というかこの空間自体に障害物はないはずなのに、姿は見えない。 「ちょっと誰に言って……、!」 声を荒げるが、しかし、目の前に現れた人物の顔を見て言葉を失った。 何もない空間から、姿を現したその人物がどこから来た、とか何でここに居るの、とかそんなことはどうでもいい。 ここは私の心の中なんだったら心から来たのだろう、うん、そうに違いない。 目の前に居た人物は、私。 「……私?でも、あれ、ちょっと違う……?」 背丈、髪型、容姿全てが似ている。そっくりそのまま生き写しかと思うほどだ。 しかし、私はこの世界に来る前のブレザーの制服を着用しているのに対して、目の前にいる子は承太郎の学校の制服を着ていた。 「もしかしてこの子……」 目の前の自分そっくりの女の子を見てハッとする。 『ご察しの通りだよ、。この子はこの世界の。 そしてこの人型の僕が、彼女のスタンドである『深紅の杖』ってわけ。 便宜上、区別を付けるなら人型が『深紅の杖act.2』ってとこかなー』 深紅の杖act.2は“この世界の私”と呼ばれた子の肩に手を回す。 付け足すようにエコーズみたいで格好良いねえ、なんて笑って言う。 私は必死に言われたことを頭の中で何度も繰り返して、考えて、理解に至る。 「この子の謎は解けたよ。 だけど、何で私のスタンドとあの子のスタンドが同じみたいになってるの?」 『待ーった、待った。謎はまだ解けてないよ。 この子はね、は生きてないの。魂だけで霊体なの』 「………………れれれ、霊体って、ちょっと待って、唐突過ぎるでしょ。 だって見えてるものを幽霊だなんて。それに触れ……ッ」 セーラー服を着た(一応他人なのでさん付けすべきか)の腕を掴む。 触れるよ、と続けたかったのだが、その腕は掴むことが出来ずに空を掴むだけ。 さんは困ったように笑った。カーディナルは口を開く。 『がこの世界に来る前に事故にあったでしょ? この世界のも同じように事故に遭ったの。 これは僕の勝手な考えだけど、多分その事故がこの世界との世界を繋いだんだと思う』 ともかくその事故では、と言う。続きは言わなくても分かる。 さんも悲しそうに目を伏せている。 『それとさっき“同じみたい”って言ったけど“みたい”じゃなくて“同じ”なの。 この姿の僕も、兎の姿の僕も同一なように君達は元は別の人間なんだけど、同じなんだ』 「それは私がこの世界のになっちゃったから?」 だとしたら、と項垂れる。 カーディナルは首を左右に振る。 『そういう問題じゃあないの、事故が二人を繋いだとはいえ、二人は同じ人間なの。 ああ、そうだ、パラレルワールドの自分と思えば少しは分かりやすいかな』 「ああ、なるほど」 ぽん、と私は手のひらを叩く。カーディナルは続ける。 『で、この世界のと話し合った結果、のスタンド能力や記憶を君にあげたいった言うんだ。 受け取ってあげてくれないかな、』 何を言い出すのか、この兎……いや、今は兎じゃあないけれども。 「記憶とか能力を……って。え、そんな、受け取れないよ」 記憶にはその人が生きてきた、その人だけの大切なものがあるのだ。 いくら同一人物と言われようとも、おいそれと受け取っていいものじゃあない。 「第一に、能力とか記憶なんてものをあげたりできるもんなの?」 『って変なとこで細かいよねー。もつまりは“一人の”だから大丈夫だよ』 もー、と頬を膨らますカーディナル。 顔が殆ど見えないから不気味なような、でも仕草は可愛いような不思議な感じだ。 そこで一度さんを見る。口パクでお願い、とお辞儀までされてしまった。 私なんかが貰っていいものなのだろうか、と考える。 さっきも言ったがそこには確かにさんの生きてきた証とも言える日々があったんだ。 部外者である私が、それを受け継いでもいいのかという話で。 でも、受け継がないでそれを断ると、彼女の証そのものがなくなってしまう。 この問題は数分、数時間で答えを出していい問題じゃあない。 しかし、意を決して口を開く。 「…………ください。さんの記憶とスタンド能力を私に下さいっ」 お辞儀すると何だか涙がこぼれてきた。 考えれば、私は生きていて彼女は事切れてしまっているのだ。 その彼女が私に『記憶』と『スタンド能力』をくれるのだという。 あまりに悲しく、そして美しい話だ。 それに、私にはまだやらなければならないことがある。 そのためには、力が欲しい。 涙を流す私に、さんがぽんと肩に手を添える。 彼女からは触れるようだ。彼女は何かいいたそうに口を開いたが、カーディナルに向かって何かを言う。 それを聞いたカーディナルは口元を緩めて伝えてくれた。 『がありがとう、変な話だけどこれからもよろしくね、だって』 「私こそお礼を言わなきゃだよ!ありがとう、本当にありがとう……」 零れ落ちる涙を拭う暇をも惜しんで、彼女を見つめる。 彼女の目にも涙が浮かんでいた。でも笑顔だった。 『じゃあ、、目を閉じて』 私はカーディナルに言われるまま目を閉じた。 すると、何かが身体全体を覆ってるような不思議な感覚に包まれる。 包まれたかと思うと、電気が消えるようにふっと意識が途切れてしまった。 「くしゅんっ」 「なんだァー、風邪か?」 冷たい風と湿気によって目が覚めた。 声は前から聞こえた。目を擦って前を見るとポルナレフが運転をしていた。 因みに私の右隣にジョセフさん、左隣に承太郎が座っている。うはうはです。 「ん、大丈夫。って、え、ここどこ?」 答えたのはいいがどうも記憶がかみ合わない。 私は額に手を当てて考える。落ち着け、落ち着けと唱えながら。 私が倒れたのはインドの道端だったが、ここはどうみてもインドじゃない。 先ほどからのこの湿気、もしかして辺りを包む霧かなと思う。 「ンだよ、またボケてんのかァ?パキスタンに入るぜ」 「もうパキスタン!はやいねえ」 そうは言ったものの、また、と言うのはどういうことだろうか。 それよりもいつも間にそんなに時間が経ってしまったのか。 私が倒れたのはつい数時間前の気がしたのだけれど。 それに、なんだか『運命の車輪』のスタンドにも会ったような気がする。 もしかしてこれがさんの方の記憶? ってことはさんも承太郎たちと少しだけ旅をすることが出来たんだ。 ふふふ、と自然と笑みがこぼれた。 「おい承太郎、は大丈夫かのォ?」 「…………大丈夫じゃないのは元からだぜ、ジジイ」 やれやれだ、と学帽のつばを掴んでくいと下に下げる。 ジョセフさんは私の顔を見ながら心配そうな顔をしている。 「ちょっと、私はいつもどおりだよ。失礼だなー」 そう言って頬を膨らませるとどっと笑いが沸きあがった。 こうして一行を乗せた車は霧に包まれた街へと入って行った。 BACK<<★>>NEXT 2010/05/10 |