旅客機が墜落したり、船が爆破したり船に騙されたりと多難が続きましたが! なんとか全員無事で無事にシンガポールの土を踏むことが出来ました。ふう。 シンガポールは自由貿易により、西洋と東洋が溶け込む多民族国家らしい。 そんな事もあってか西洋東洋と両方の顔立ちの人が行き交っている。 何事に関しても自由な雰囲気を見受けるが、ポイ捨て禁止の標識が立っている。 ここでポルの荷物がごみ扱いされて爆笑したなあ。 本日は晴天、気候も寒暖の偏りもなくとても過ごしやすいため観光日和だ。 今日はこれ以上移動出来ないので、折角来たシンガポールだ。見て回りたい。 きっと承太郎が許してくれない。お前は私のお父さんかっ。 昨日今日と災難続きの私たちは一刻も早く身体を休ませるべく、身近なホテルに入って行った。 一番の年長者であるジョセフさんがフロントへと進んでいく。 清潔感のある白い壁と、見事な観葉植物が入り口で出迎えてくれ、その先を進むとちゃちな マーライオンの彫刻も置いてあるのが見えた。キッチュだ。 私は周囲を見渡しながら目当てのものを探す。うーん、見当たらない。 がっかりと肩を落としていると、花京院がどうしたの?と聞いてきた。 「ホテルとかの宿泊施設に何かお土産売ってるかなあ?」 「おい……俺達は観光で来てるんじゃねえんだぞ」 「まあまあ。街に出たいとか見て回りたいとは言ってないんだから大目に見ていいんじゃないか?」 私がきょろきょろと辺りを見渡しながら言うと、承太郎は溜息を吐きながら呆れならがら口を挟む。 やっぱり、と内心苦虫を噛んだ思いになりながらも、花京院早急なのフォローによって助けられた。 助け船を出してくれた花京院はくすくすと笑っていた。 「おい花京院、コイツを甘やかすな」 「今日はこれ以上先に進まないから各自自由でいいだろう?」 「いつDIOの手下が襲ってくるか分からない」 「彼女だって闘えないわけじゃあない。いざとなったら応戦出来るだろう?」 「…………」 にっこりと花京院が優しく笑みを浮かべた。 それにぐっと言葉を詰まらせてやれやれ、と呟く。 「じゃあお土産買えるのっ?」 「好きにしな。自分の金持ってきてんだろ?」 手をひらひらと振る承太郎に、もちろん、と返事をするとふん、と鼻を鳴らした。 花京院には勝てなさそうだ。新発見だね。 その花京院がちょんちょんと肩を叩く。小首を傾げながら。 「でも誰に買うんだい?」 「自分ー。あとは……自分?」 「てめえだけじゃねーか」 うわあと嫌な目で見られた。いいじゃない、家には親居ないらしいし贈りたい人居ないもん。 その後の話で取り敢えず花京院は買い物に付き合ってくれることになった。承太郎は嫌だってさ。 話を終える頃にジョースターさんがホテルのフロントで受付を済ませて戻ってきた。 私は家出少女と同じ部屋で、アヴドゥルさんジョセフさん、承太郎と花京院が同じ部屋だ。 そしてポルが一人部屋、という部屋分けになった。 身近なホテルを選んだ割にはすごく綺麗に掃除されているし、従業員の方々もニコニコしている。 それに、何ですかこの床や壁は。きらきら輝いていて埃なんか見当たらないほど清潔感があり、綺麗過ぎる。 正直寝泊りできればいいや、なんて軽く思っていたけれどもこれは素敵だ。 私はジョセフさんに心から感謝した。 18 このホテルでは日本のようにホテルマンが部屋まで案内するという形式ではない。 フロントで渡されたキーを受け取り各々の部屋へと向かうという方法だ。 ……というわけで各々が鍵を受け取り各自割り当て割れた部屋に向かう。 そこで昇降機に乗って移動するわけだが、入り口のすぐの壁はガラス張りで、上昇しながら景色が楽しめる。 「わーっ!すごいすごい、景色が綺麗!」 「はしゃぐんじゃねえ。ったく、ガキよりもガキっぽいってのはどういうことだ」 「景色を楽しんでるだけだもーん」 「ひょー、こりゃ絶景だな。よし、後でナンパでも行くか」 あくまでも景色からは目を逸らさずに言うと、ポルも乗ってきた。 私の肩にぽん、と手を乗せながら。いや行かないよ。 ここはホテル内の私達に割り振られた部屋。 1210号室なだけあって窓の外やバルコニーからの景色は絶景! 何てったって12階だからね、12階。漂流した海や町並みが見渡せます。 ちなみに床には不要なくらいに何枚もの絨毯が敷き詰められている。 「……デザインはともかく、凄く部屋が綺麗だねー」 「デザインは駄目だなっ。センスねえなー」 ははは、と男勝りの強気に笑う。 彼女の喋り方は男装のためのものではなく平生からそうなのだろうか。 「特にこの絨毯の意味は理解出来な……ん?どうしたの?」 もじもじ、もしくはそわそわしながら躊躇いがちに私を見る家出少女。 どーしよっかなー、やっぱやめよ、でもなー、見たいな事をジェスチャーしているような行動。 傍から見たら奇怪そのものだと思う。と、そこで意を決したように強い眼差しで私を見る。 「じょ、JOJOって彼女とか居るのッ?」 「へ……?承太郎?彼女は……居ないと思うよ」 「よし、やったぜ……!」 どうして?と尋ねるといや別に!と慌てて濁されたが彼女は承太郎に惚れてしまったようだ。 確か原作でもそんな雰囲気を漂わせていたよね。恋する乙女だなあ。 それでもまだ何か言いたそうにしていたが、あまり口を挟むのも鬱陶しいだろう。 何だかそんな空気と一緒に気持ちも入れ替えるべく、窓を開けた。 ガラス張りの窓に触れるとガラスだけはひんやりとしていて、少し驚いた。 鍵を外して窓を開けると、優しい風が吹き抜けた。すっごく気持ちいい。 その後バルコニーに出て街を眺めていたら急に抑えていた衝動が蘇ってきた。 「ねえねえ、あとで一緒に買い物行かない?」 「買い物?」 「うん!時間があったらの話だけど、お金はあるし……。駄目かな?」 「別にいいけど……」 「やった!ありがとう!」 外を見ていると沢山の人が様々な服を着て行き交っていて、様々な物を買っているのが見える。 この子にも色々な服を着せたり、髪型を変えたりしたら可愛いだろうなあなんてふと思ったのだ。 服を買わなくても見立てたりするだけでもかなり楽しめると思う。楽しみだなあ。 家出少女はぼふっとベッドに飛び込んで、枕に顔を埋めてからじぃっとにやにやしている私を見る。 何ニヤニヤしてんの、とか言われるかと思ったが、先程のようにどこか必死で、でも強い意思のあるそんな目で見る。 私は内心何を言われるかとどきどきしながら、必需品であるミネラルウォーターをぐぴっと口に含んだ。 「ねえアンタはJOJOとデキてるの?」 「ぶっ……っごほ、げほげほっ……な、何言って……」 盛大にミネラルウォーターを噴出した挙句むせてしまった。 デキてるってお嬢さんや、その言い回しはないだろう。直球過ぎるぜ。 彼女はむせている私に優しい言葉をかけるどころか、むせていることさえ気付かずに胸の前で手を組んで どこか熱っぽい眼差しで遠くを見ていた。 「デキてるわけないか。じゃあ、あたしにもまだチャンスがあるね!」 「いや、ちょ、人の話聞い……」 「じゃあ何さ、デキてるわけ?」 言い終わる前に口を挟むこの子。 腕を組んで強気な態度で鼻を鳴らして聞いてくる。 デキてるか否かと聞かれたら、答えは否。当然でしょう。 しかしデキてないとあっさり見抜かれてしまうのは結構悔しいものだ。 「デキてないんだけど、乙女心的にはもう少しですね……」 「えー!JOJOってばあんなにカッコいいのに! あたしがアンタの立場なら猛烈アタックするね、絶対に」 「あの……話聞いて……」 「あーJOJOってどんな人がタイプなんだろうっ?」 こりゃ完全に自分の世界に入ってるようです。 夢見がちで熱っぽい視線遠くをみる姿は漫画のヒロインみたいだ。 しかし自分の世界に入っているのはいいのだが、聞かれたことには一応答えないと駄目らしく(そこはちゃんと 聞いているみたいで)返事をしないとプリプリと怒るのだ。なんて理不尽なんだ。 そんな話もほとほと聞き(主に答え)飽きた頃だ。 窓辺に立っていると何処かで口論しているのだろうか、喧騒が聞こえた。 きょろきょろと辺りやバルコニーを見回すが、人の姿は見えない。 しかもバルコニーに出て居る人は少なく、出ているいずれの人もケンカなどしていない。 はて。と首を傾げて思案する。聞き覚えのある声だった。 そこで回転の悪い私の思考は、電撃のように脳裏を走って一つの『理解』へと繋いだ。 「あ、わ、私ちょっとお手洗い行ってくるねっ。ついでに飲み物買ってくるから」 鞄の中から財布を取り出して、慌てて部屋を出て行った。 扉を閉める辺りに家出少女の不思議そうに返事をしたのが聞こえた。 嵐のように駆けていったを見送った後、ぽつんと一人残された部屋で彼女は小首を傾げた。 丁寧に掃除された廊下を駆けながら喧騒が聞こえた方へと向かう。 ポルナレフの部屋は912号室で、私達の部屋は1210号室だったので三階分降りなければならない。 最初はエレベーターを使用しようと思ったが、待ち時間を考えると下るだけなら走ったほうが速い。 階段を見つけ、手すりを使って飛び降りるように降る。 確かこの次の展開はデーボとポルナレフが闘う話だった気がする。 ポルナレフは結果的にデーボに勝てるから心配ないけど、私の記憶が正しければホテルマンが犠牲になったはず。 彼を、ホテルマンを助けるために私は今走っている。 『お急ぎだねぇ、』 先程は窓を開けていたから良く聞こえたが、廊下に出てみると騒音と言う騒音は聞こえない。 騒音の代わりに、透き通る可愛らしい声が聞こえた。どこか茶化すような楽しそうな声色だ。 声の主の雪のように白くて綿菓子のようにふわふわした兎がいきなり現れた。 猩々緋色の目で先を見据えるように見ながら走る。 『ふう、息苦しいったらないなー』 「何度も言うようだけど勝手に出てこないで」 『ひどーい。僕、一応遠慮して部屋では出なかったのにー』 可愛らしく間延びした声で媚びるように喋るが、普段からこうだ。 もし先程勝手に出て来てたとしても家出少女がいるから会話は出来ないと思う。 そう答えると更に酷い、と連呼された。仕方ないでしょ。 階段を降りきって、広い通路に出る。次は912号室を探さなきゃ。 「ほらほら、兎、あんたの嗅覚は頼りにしてるんだから」 『“は”ってどういうことなのさー。因みに嗅覚なんかアテにならないよ。 スタンド使いは惹かれあう、ただそれだけだよ』 さらりと康一くんが言うはずの名言を言いやがって。 匂いは関係ないといいつつ鼻が動いている。あ、これは常に動いているもんなのかな。 そんなことを考えながら走っていると、エレベーターホールを見つけた。 その先に従業員用の制服をきた男性が、カツコツ、と規則正しい靴音で歩いているのが見えた。 ホテルマンは背筋をピンと伸ばしてポルナレフが頼んだであろう救急箱を抱いている。 『、あそこ見て!』 「ここ908号室だ。て、ことは―――やばい! あのっ、す、すいませーん!従業員さァァァァアアん!!」 高級ホテルにあるまじきマナー違反。しかも息切れ混じり。 貴方の命を護るためです許してください、と思いながらも全力疾走で駆ける。 ※他のお客様の迷惑ならないように、大声や騒音などの公害を思わせる行為をしてはいけません。 救急箱を持っていたホテルマンはもう扉をノックして、ドアノブに手を掛けていた。 マナー違反の行動も空しく、ホテルマンは扉を開けた後に、私を見て頭上に疑問符を浮かべている。 私は兎をむんずと捕まえて、夢はメジャーリーガーと言わんばかりにホテルマンに向かって思い切り投げた。 デジャブ?気のせいだと思う。兎はばかぁー、と叫ぶがホテルマンには声どころか姿も見えない。 間に合うことだけを信じる。 開いた扉の中からポルナレフの逃げろッ!とか殺されると言ってるだろーがァッ!と必死で叫んでいるのが聞こえる。 兎がホテルマンの肩に触れたとほぼ同時に不気味な人形が飛び出してきた。 この人形を操ってるのが呪いのデーボのスタンドで、『悪魔』のカードを暗示するエボニーデビルだ。 兎はすぐにフォーエバー戦で使った球状の結界―――『深紅の球体』と言うらしい―――を使う。 この技はスタンド自身を基準(中心)にして半透明色の球状の結界を作るものだ。距離は半径三メートル。 今回の場合はホテルマンを基準にして球状の結界を張ったというわけだ。 『うけけけけッ!くらいなァ!』 不気味な人形ことエボニーデビルは、左手に持っていた鋭利なナイフを振り下ろした。 しかしその前に『深紅の球体』の発動が間に合い、環にナイフが触れた。 『ケケ……ゥギャァァアアッ!』 そのナイフがどんどん鉛筆削り方式に消えていく中、エボニーデビルは咄嗟に体を後ろに飛ばす。 この飛ばしたことにより、左手の指をいくらか消してしまったらしい。血が溢れている。 これらのことがほんの数秒で行われたのだ。刹那的な攻撃時間の差の闘いだった。 『ギリギリィ!この球に触ると怪我するぜ。なんてねー!』 「ほら早く結界解いて!従業員さん、早く逃げてくださ……って気を失ってる」 『騒がれると厄介だから今気絶させたよー』 「お前がやったんかいっ!とりあえず部屋の外に……」 敵が痛みに喚いている隙にホテルマンを引きずって完全に部屋の外に出す。 その間にも一応カーディナルが『深紅の球体』を使ってくれたので防御は完璧。 912号室に入り、扉をきちんと閉める。エボニーデビルが出て行かないようにね。 部屋に入った後は『深紅の球体』を解除して敵に向き直る。 そこでふとこの部屋の主がいないことに気付く。 「あれ?ポルナレフがいない。ポルー、おーい」 「なっ、お前か!?何やってんだッ!」 ちょこんと頭の上に兎を乗せて参上したが、ポルナレフの姿はない。 と思ったらコードが変に巻かれたベッドを見つけた。この下だ。 どうにか彼を助けなければならない。 しかし不気味な人形は物凄いスピードでナイフを振り回しながら跳んで来た。 ナイフは一本だけではなかったようだ。ちくしょー。 考える猶予を与えない攻撃は頬を少しかすめて、一筋の血が滴った。 『おいてめーッ、おれを無視してんじゃねーぞー!』 『は嫁に入れるかどうかも危ういのにキズモノにしちゃってー。 それに言葉遣いが悪いなー。本当は願い下げだけど、僕が相手だよ』 『知ったこっちゃねェ、ウキャッキャキャッ!』 エボニーデビルの足止めを兎に任せて、ベッドをどかそうと手を掛ける。 うおおお、とか、おりゃああ、とか掛け声だけは力強くても持ち上がらない。そりゃそうか。 顔を真っ赤にさせて頑張ったが、ベッドはぴくりとも動かない。 「無理すんな。、その辺にノコギリが落ちてねえか?」 「んーでっかいのがあるよ」 「それでベッドの上のコードを切ってくれ。切った後は俺がヤツを倒す!」 ちらりと兎を見ると見事な攻防戦を繰り広げている。 エボニーデビルは長い槍を上手く使って兎に攻撃をし、兎はその攻撃を受ける前に消滅させようと必死だ。 兎に頼ろうなんて甘いことは思っては居ない。ただ早くポルナレフを助けて闘ってもらいたいのだ。 「わかった」 私はノコギリを拾い上げて、片足でコードを押さえて押して、引いてを繰り返す。 ノコギリが大きすぎる所為でとても使い難いが、何度か押し引きを繰り返すうちにコードが切れてきた。 『あンのくそアマァァーッ!』 そこでエボニーデビルがコチラに向かって跳んできそうになった。 しかしうさぎが前足で思い切り下に向かって殴りつけた。 『あんたの相手は僕だって言ってんでしょー、馬鹿なんだから』 「カーディナル、ありがとう」 『早くしてねー』 そういってまた闘いが始まる。私は急いでノコギリを動かす。 あと一本。あと少し…………切れた! 「切れた!これでコードは取れたよ!」 「っしゃあ!、危ないから離れてくれな」 言われたとおり離れると、シルバーチャリオッツが現れて、ベッドの下に潜り込ませた。 チャリオッツがベッドの下からゆっくりとベッドを押し上げる。そこからポルナレフが現れる。 私は彼に手を差し伸べた。 「ん」 「おお、サンキュー」 「どう致しまして。じゃあ、やっつけちゃってー!」 「あ?オメーは何もしねえのかよ」 「やられっ放しは悔しいでしょ?」 ふふん、と挑発的なことを言う。 ああ、と答えながら指を鳴らし、ポルナレフは再びシルバーチャリオッツを出した。 そして深紅の杖とじりじりと向き合うエボニーデビルの元へ向かう。 「カーディナル、時間稼ぎさんきゅ。コイツは俺が仕留める」 『ほいほーい』 『おいテメエ!クソ兎!この腕の恨みは必ず晴らすから待ってろよ、キシシッ!』 『…………』 兎はふい、とエボニーデビルの話を無視しててちてちとゆっくり戻ってきた。 鼻のヒクヒクが激しく動いている。どうしたのか。 「カーディナル、どうしたの?」 『別にぃー。僕、言葉遣い悪いヤツって嫌いなんだー』 普段から間延びした口調もどうかと思うけどね、と思ったが敢えて口に出すまい。 怒ってる兎を抱えて、なだめるように頭を撫でてあげる。二、三回撫でると姿を消してしまった。 私はバルコニーの桟に腰掛けて、闘いの様子を眺める。 「ご対面……」 『ぎゃああーッ』 扉のほうに居るエボニーデビルは逃げようと後ずさる。 しかし敵の姿をはっきり捉えることができるポルナレフは逃すはずがない。 『ギャァァアーッ!』 「おっと」 背を向けて走り出すエボニーデビルの両脚を切り落とす。 「おいデーボ。聞くことがある。俺は両手とも右腕の男を探している……。 その男の『スタンド』の正体を喋ってもらおうか」 『バカか?スタンドの正体を人に見せる殺し屋はいねえぜ。 見せた時は相手か自分が死ぬときだからよ!』 脚を切られたというのに強気な姿勢を崩さない。 それはプロの殺し屋としてのプライドからか。 下品なヤツだけれどもこれが本物ってやつだろうか。 『てめーらのように皆に知られちまってる“スタンド”使いは、弱点までも知られちまってるのさあーっ! もっとも、お前の能力はまだ聞かされてねえが、じきに知れ渡るだろーなァ』 「え……私?」 きょとん、と目を見開いて自分を指差す。 そこに形勢逆転のポルナレフがこちらを一瞥し、チャリオッツの剣先をヤツに向ける。 「安心しろ、口封じはちゃんとするからな」 振り返るポルナレフがニッ、と笑みを浮かべる。 エボニーデビルは低く呻き声をあげ、睨みつけるようにポルナレフを見る。 「もう一度かかって来い、このド低ゾク野郎がァ!」 『ガルルルーッ!』 「お疲れ様、ポル」 再び手を差し出すが、今回は握手を求める手だ。 ポルナレフは息を吐きながらやれやれと言わんばかりに肩を竦ませた。 そうして次には手を取って握手を交わした。 「まったく……俺達を休ませない気だぜ、敵は」 「精神面でも負けないように鍛えてくれてるんじゃない?」 「はは、なんつー慈愛精神だ。おっと……すまねえ」 至るところからからだらだらと血が流れる。そのため少しふらふらしている。 ポルナレフの腕を私の肩に乗せて、肩を貸そうと思ったが身長が足りない。 足りなくても意地でも支えようとがっしりと背中と腕を掴んで支える私。 黙って座っているわけにはいかないらしく、扉を出て行こうとする。 「うーん、重いなあポルナレフくん。実に重い。で、これからどこか行くの?」 「ジョースターさん達の部屋に行くんだよ。 なんだお前、連絡があったから来たのかと思ってたぜ」 「私は窓開けたらポルの騒ぎ声が聞こえたから来てみたの」 扉を開けてやり、ゆっくりと進む。 そこにはまだホテルマンが伸びていたが、敢えて気にしないことにした。 部屋を出て廊下を歩いていると、エレベーターホールの看板が見えた。 そこに行き、乗り込んで12階のボタンを押し、ガコン、昇降機が動き出す。 1212号室に入ると、家出少女以外の皆が集合していた。 そこで既に倒してきた彼を倒す対策が練られているのは言うまでもない話で、私たちは顔を見合わせて笑うしかないのだった。 作戦会議は呪いのデーボを倒したことにより、今後の進行方法についての話し合いになった。 その結果、向かうはインドで移動手段はバスか列車ということで、交通手段の手配は明日することにした。 後は各自部屋に戻るわけだが、売店的な場所で部屋で食べるお菓子を買って帰るので二人を呼び止めた。 二人とは勿論、承太郎と花京院のことだ。花京院は快く付き合ってくれた。 「わー!おいしそうなお菓子がいっぱい! あとあの子に飲み物買ってくるって言ったから、何か飲み物も買っていかないとね」 手当たり次第に品物をひょいひょい持ち上げる。 そこでちょいちょいと肩を叩かれる。 「……もしかしなくてもこれらは複数で食べるんだよね?」 「え?」 「こんな量一人で食う気だったのか?」 承太郎も呆れたように口を挟む。 「ま、まさかそんなわけないよ!みんなで食べようと思ったんだよ」 「…………」 「…………」 二人の哀れむような視線が痛いので、シンガポールのお土産用お菓子の紹介をします! ここののお土産コーナーだけかもしれないけど、何だかマーライオンをプッシュするものが置いてる。 日本でもよくある手口だが、おいしいのかどうかが分かり難いね。 マーライオンクッキーとか、マーライオンカシューナッツとかマーライオン白ワインとか。他にもあるけど以下略。 その中でも適当な飲み物とチョコとクッキー、レイヤーケーキとかっ●えび●んのようなものも買ってみた。 会計を済ませて帰ってくると、承太郎が思い出したかのように何気なく言う。 「…………そういえばお前、家でも量食ってたな」 「いや、ふつーの量だよ」 けっ、と不貞腐れたような仕草をとるが、なだめてくれる人は居なかった。 承太郎もこんなのが幼馴染なんて信じられねえぜ、とボヤく始末だ。酷い。 ふと花京院が何か思案めいた顔をしているのに気付いた。そして口を開く。 「それで太らないのは凄いな。 そうだ、日本に帰ったら僕の絵のモデルになってくれないか?」 「……は?」 思わず思い切り間があいてしまった。 承太郎も、何言い出すんだコイツは、みたいな目で花京院を見る。 駄目かい?と首を傾げるふわふわウェービーの前髪の持ち主、花京院。 それよりも彼はこの旅で―――。 いや、その運命を回避させるために付いて来たんじゃないか。 私はむんっと意を決して買い物袋を花京院に押し付けながら答える。 「いいよ。日本に帰ったらヌード以外ならね!」 「ヌードって。まあ絵は美人に描いてあげるよ」 くすくす笑いながら言う。 あの絵で上手いも下手も美人もあるのか気になった。けど聞かない。 この後、家出少女と二人で承太郎と花京院を部屋に呼んで菓子パーティを行った。 部屋の電話でポルナレフに声を掛けると、怪我していたくせにノリノリで現れ、 次にジョセフさん、アヴドゥルさんと結局全員集合したのには思わず笑ってしまった。 不思議なのは承太郎はどうやってか全く、これっぽっちも知らないがビールを持ってきて飲んでいたのだ。 それをみたジョセフさんは叱るわけでもなくふらーっと買い出しに出て、沢山のビールやらウィスキーやらを買ってきて 私や花京院、あろうことか家出少女にまでも勧める始末だ。怒りました。 気付くと時計の針が夜のおやつの時間を差していた。どうやら眠っていたらしい。 大人組みが酔いつぶれたり、疲れて眠ったりで静かになっている。 家出少女はベットの上で丸くなっていたので、抱きかかえて布団をきちんと掛けてあげた。 「私も……ってジョセフさんとポルが仲良く寝てる……」 一つのベッドに干されている布団のように横向きで二人が寝ていた。よく寝れたな。 はあ、と溜息を吐いて布団だけ被って椅子の上で寝よう、と思い一歩進むと足元でこつん、と何かが触れた。 しゃがんでよく見てみると、酔いつぶれた花京院が眠っていた。流石に持ち上げれないので、布団を掛けておいた。 アヴドゥルさんと承太郎の姿はない。部屋に戻ったのかな? 一人になり改めて考えるとエボニーデビルのあの言葉が気になる。 『てめーらのように皆に知られちまってる“スタンド”使いは、弱点までも知られちまってるのさあーっ! もっとも、お前の能力はまだ聞かされてねえが、じきに知れ渡るだろーなァ』 そう言う様子からは本当に私のスタンド能力は、実際に見るまで知らなかったように思える。 兎の『深紅の円環』に関しても知らないで攻撃を受けていたのが何よりの証拠にも思えるしなあ。 しかしDIOはジョナサンの肉体によってこちらの動向を全て知っているはずだ。 まだ伝わってなかったのか、それとも敢えて伝えていないのか。 「うーん、よく分からないね」 ここでいつものように兎が出てくるかと思いきや、反応がない。 あれ?と首を傾げるとどこかの扉が開く音がした。恐る恐る音の出所をみる。 「だ、誰……?」 「…………」 無言でヌゥーと現れたのは承太郎。無言はやめてください、怖すぎる。 寝ぼけているのか起きているのかよく分からない目と表情をしているので、対応に困った。 「何がだ?」 「ん、聞いてたの?てか寝ぼけてるかと思ったよ」 「馬鹿か」 承太郎も先程覚醒したのか、あるいは今まで起きていたのか目を擦りながら、何がだ、と再び尋ねてくる。 大した話じゃないよ、と笑いながら口を開く。 「敵の動き。これから毎日寝首を掻かれる心配をしなきゃかなーって思ってね」 「てめーは弱くねェから心配はいらねえよ」 ポケットから煙草とをライターを取り出して火を点ける。 承太郎は立ち上がってバルコニーの扉をあける。紫煙をくゆらせながら。 黙って突っ立ってると承太郎が小さく、来いよ、と言うので私もバルコニーに出た。 「……今日、ポルナレフがやばかったって言ってたな」 「?」 「お前が来て助かったって言ってたぜ」 「私、あんま役に立たなかったけどねー」 あはは、と笑う。ノコギリ以外は兎とポルの力だ。 ちなみにあのタイミングでポルを助けたことについては、トイレに行った後たまたま 迷子になっていて通りかかった、と言うことにしておいた。それで信じてくれたので良かった。 承太郎はふうと紫煙を吐き、私の額をビシィと指で弾いた。 声にならない痛みに悶絶していると、ゆっくり口を開き、いつもより低い声色で言う。 「無茶すんじゃねえ。お前に何かあったらあのアマにも、の両親にも顔向けできねえじゃねェか」 「お……おー。ごめん、以後気を付けるよ」 「言いたかったのはそれだけだ。明日もどーせ付いて来るんだろ。早く休めよ」 そう言うとあとは、邪魔したな、と言いながら承太郎は部屋を出て行った。 最初に空条家にお邪魔したときといい、たまに変に優しくなるな。でも痛かった。 額を押さえながら、家出少女が眠るベッドにもそもそ侵入して寝ることにした。 BACK<<★>>NEXT 2010/01/02 |