突然の出来事だったので何故、彼女がスタンドを使ったのかが分からなかった。
ジョースターさんの話によるとクレーンが勝手に動き、一人の水夫の頭部に直撃しそうだったらしい。
振り子のように勢い良く、大きく振りかぶったクレーンなら簡単に人を貫いて殺してしまうだろう。

私でさえ何も気付けなかったクレーンに、いち早く気付いて対処したは凄い。
能力もそうだが瞬発力と洞察力に長けていると思う。
……本当に彼女自身がクレーンの動きに気付いたのなら。


それに先程の毅然とした態度で答えた彼女の目は、何かの決意と覚悟に満ち溢れていた。


―――「私、何も知りません」


強く覚悟に満ち溢れた瞳は私も気圧されるほどだ。
もしかして彼女は記憶喪失の上に、更に何か背負っているものがあるのだろうか。
しかし自分の過去の記憶以外の記憶は詳し過ぎるほど知っているようにも見える。

「すごいな、

その柔らかい髪をくしゃりと撫でてやると嬉しそうに目を細めた。
そこにジョースターさんや承太郎、花京院らが戻ってくるのが見えた。

「ふふふー、私、役に立てました?」
「ああ。彼の命を救ったのだからな」

助けること出来たんですよね、と屈託なく穏やかに笑う
先程問い詰めた際には困ったような表情をしていたのに、今は普段どおりの態度だ。
私も彼女について考えるのではなく、今はこの状況をどう乗り切るかを考えなければ。
彼女は私達の味方であることに間違いはなく確かなことなのだから。




と、すぐ傍で小さな悲鳴があがった。だ。
小刻みに肩を震わせて呼吸をする彼女の二つの目からは涙が溢れていた。
考え事をしていた所為で現状を理解できない私に代わり、悲鳴を聞きつけ近くに居た花京院がに駆け寄る。

「あ、あ……嫌ぁ……ッ」
、見るんじゃあない」

が消した筈のクレーンが再び現れ、水夫一人の顔を貫通したのだ。
それも運の悪いことに彼女のすぐ傍で起こった。

先程命を助けられた水夫とは別の水夫だったようだが、彼女の心を傷付けるには十分だ。
は涙を流し、花京院が無残な姿を見せまいと彼女を庇うように立つ。
少し離れたところに居た承太郎も家出少女の視界を手で覆って隠した。


嗚咽混じりに、が小さく囁いた。

「……私の所為なのかな」










17











鈍い音と共に映された光景に、頭の中が真っ白になった。
さっき私が助けた水夫は無事だったが、別の水夫がクレーンの先端部分に貫かれていた。
クレーンを消した事により、(ストレングス)のスタンド使いであるフォーエバーが再びクレーンを再生をしたのだろう。
原作では白黒の二次元だったため難なく見ることが出来たが、今は三次元。生々しい。


血の匂いや貫かれた身体からは、みしみしと骨が鳴る音が聞こえる気がし、生臭い血の匂いが潮風と共に
鼻腔をかすめ、胸から何かが込み上げてくる衝動を抑えられなかった。
暫く何も食べてない空っぽの胃袋のお陰で、花京院に嘔吐物をさらけ出さずに済んだのは不幸中の幸いだ。
しかし涙と震えが止まらない。押し寄せる恐怖と罪悪感と何かが私を苛む。

「……私の所為なのかな。私がさっき助けなきゃ……」
「落ち着くんだ、。今我を失ったら敵の思うツボだ」
「でも、一人助けたのに一人助けられなかった」
「僕らは二人とも助けられなかった。もし彼になにか後ろめたい思いがあるのなら、彼の大切な仲間を守り抜こうじゃあないか」
「……うん」

返事をすると涙を拭って頬を思い切り叩いた。
花京院はそれを見て目を丸くしたが、すぐに穏やかな眼差しになった。彼は落ち着いている。
そして泣いている子供にするように優しく抱き締めてぽんぽんと背中を叩いた。
それだけの事だけど、取り乱して泣いていたのが嘘のように落ち着いたのだから凄い。
周囲の様子を伺いながらジョセフさんたちがこちらに向かってくる。

「ありがとう。そう言ってくれると……少しでも気持ちが楽になる」
「そもそもが罪悪感を感じる必要なんかない。これ以上の犠牲を出さずに敵を倒すのが彼への手向けになるんんじゃあないか?
 今、法皇の緑を這わせる。何か分かるかもしれない」
「ハイエロファント、がんばっ」

そう言ってハイエロファントを地面の隙間からしゅるんと這わせた。
目元が赤いのを気にしてポルが私の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でた。

「ちょ、何すんの」
「これしきの事で、あ、いや……オホン。
 ぴーぴー泣いてるのは柄じゃねェだろ?早く倒しちまおうぜ!」

精神的に弱った私のために彼らしからぬ言葉の気遣いが見られたことに驚いた。
私の中での空気読めない男No.1なのに。あ、失礼。

「ポル……ありがとう。よし!倒すぞーッ!」
「お!強い女は嫌いじゃないぜ!」
「私も軽い軟派な男は嫌いじゃないよ」

ニカッと白い歯を見せて無邪気に笑うポルナレフ。
私も少しぎこちないがニカッと笑い応えた。




ジョセフさんは水夫達に機械類に触らないよう注意を促す。
しかし職業柄一番詳しいのは水夫である自分たちだ。
スタンドは一切関係のない彼らは、現状が読めないため気に食わないのだ。

「命が惜しかったらわしの命令に従ってもらおうッ!
 機械類には決して近付くな!全員良いと言うまで下の船室内ににて動くなッ!」

水夫たちはこのジョセフさんの一言にすごすごと船室へと向かう。
次に小さく非力な家出少女の前に屈み、小さな肩に大きな手を置く。

「君に対して一つだけ真実がある。我々は君の味方だ」

強く優しい瞳で訴えかける。
家出少女に私達が味方であるとおもってもらえればそれでいい。
言い終わると立ち上がり、私達を見ながらジョセフさんが口を開く。

「よし、二組に分かれて敵を見つけ出すのだ。
 夜になる前までに……暗くなったら圧倒的に不利になるぞ」

そう言って二組に分かれて捜索に入る。
私は家出少女の傍に居ようと思ったらアヴドゥルさんが行動を共に、と誘ってきた。
アヴドゥルさんは私の事を疑い始めているようで気乗りはしなかった。

「はい」

しかし断るわけにもいかず笑顔で返事をした。




まず水夫達を待機させる船室内を見ていた。
テーブルとイス、通信機などがあり近くにはシャワー室があった。
私達を見かけると訝しげな視線を浴びせる。おお怖い。

「ここはもう大丈夫そうだな。上に出ようか」
「あ、はい。そうですね」

そこに家出少女の姿が見えないのが心配だったが、出口ですれ違った。
船室を出て、階段を上り甲板までいく途中にアヴドゥルさんは躊躇いがちに聞いてきた。

、君は何者なんだ……?」

漠然としていてそれでいて不確かなものに向けられる言葉。
確かに私の存在自体が不確かなものだから仕方ないのか。
その前にスタンド名をもらう時からアヴドゥルさんには疑問を与えていたしなあ。

「えーと……何者と言いますと?」
「あ、いや、何度も疑問をぶつけて済まないと思っている。君は確か自分自身の以前の記憶を部分的に失っているそうだね。
 過去は失っていても今回のように、何かほかの事を知っているんじゃあないか?」
「……他の事ですか……」
「敵スタンドの名前や情報などだよ」
「……………」

だからこの間が駄目なんだ、と自分を叱責する。
アヴドゥルさんには沢山の謎を思い起こさせるようなことしたもんな。
スタンドの名前然り、スタンド名を言い当てた事然り、今回のことも。
もしかしたら旅について来ることすらも疑問の対象かもしれない。

「私は」

階段を一段一段を踏みしめるように上りながら声を発する。
そうでもしないとばくばく騒がしい鼓動のために踏み外してしまいそうだから。

「私はです。確かに過去を知らない分たくさん他のことを知っています。
 でも今はそのことについてまだお話できません、まだ話せないんです」
「誰かに口止めをされているのか?」
「いいえ、私の気持ちの問題みたいなものです。ごめんなさい。
 それなのに私のエゴで助言して、でもいざ全部話せって言われると言えなくて」

もうアヴドゥルさんの目を見れない。
伏目がちにゆっくり話をするが、我ながら正直で自分勝手な言い分で嫌気が差す。

「何か……考えがあってなのだろう?」
「考えなんて大したものじゃないですが……」
「そうか。余計な詮索をしてしまってすまなかったな」
「え、問いたださないんですか?」

そう言うとアヴドゥルさんはふむ、と一時だけ思案する。
甲板に出ると承太郎や花京院たちが見えた。

「問いただしたいのだが、それでは君が困るだろう?
 スタンドを持っていたってただの女子高生である君が、こんな危険な旅を共にした理由にも関係しているんだろう」
「…………っ」

穏やかだけどどこか困ったような表情で言うアヴドゥルさん。
私は何度も何度も縦に頷いた。彼が私を理解してくれていることが嬉しくて目が熱くなった。

「わかった、君が話してくれるまで私からは聞かない。いずれ話してくれるのだろう?」
「はい……必ず話します」
「ならいいんだ、すまなかった」
「謝らないでぐだざいーっ」

謝らなきゃいけないのは私のほうだ。
再び涙が零れ始めた私の顔を見て、一瞬驚いたが頭にぽんと手を置いた。
ジョースター御一行の皆さんは人の頭を撫でるのが好きなようだ。
撫でられながらも、それでも待ってくれるという言葉が嬉しかったので、ふふ、と笑う。
心がきゅうっと締め付けられるような熱いようなそんな不思議な気持ちになった。
なんか今日はとことん皆に優しくされてる気がする。



その余韻に浸っていると勝手に現れた兎が小さく耳元で囁く。

、もしもまだ誰かを助ける気なら行かないと』
「助けるに決まってるよ、そのために力を貸して?」
『まっかせといて』

アヴドゥルさんは承太郎たちと合流し、何やら話をしている。
私は涙を拭い、会話に加わることなく来た道を戻り、船室へと向かう。
階段を急いで降り通路を駆ける。扉を開けると水夫は通信機を弄っていた。
水夫たちは私に気付くと再び訝しげな視線を送ってきたが、無事で良かったと心の中で呟く。

「また来たのか。お嬢ちゃん、今度は何しにきたんだァ?」
「私はって言います。上で邪魔者扱いされて船室に居ろって言われたんですぅ」
「そうなのか? 酷ェ奴らだな」
「知識もないくせに偉そうだしなァ」

助けようとしてるジョセフさん達に対して酷い言い草だなあ。
いやいやスタンドを知らないし見えない彼らからしたら偉そうな人物としか思えないだろう。

取り敢えず船室に自然に居れるように、嘘を吐いて同情を買う。
先程ジョセフさんが水夫の安全のために水夫のプライドを少しばかり傷付けた。
そのため彼の仲間である私もいい顔はされないのは分かっていた。
そんな状況を少しでも緩和させようとするための嘘だったが、予想以上に簡単に信じてもらえた。

「可哀想になあ。こっちにでも座りな」
『情を買った。悪女だねぇー』
「ありがとうございます」

穏やかな空気になった。私は丁寧にお辞儀をして席に着く。
兎のほっぺをぎゅううって(つね)りたくなったが我慢した。

深紅の杖が敵スタンドの攻撃を消滅出来るのは半径三メートル以内。
つまり私の周りに全員が居ないと護りきれない。
今のところ全員が三メートル以内に居るが、いつ誰が動くかわからない。

「!」

船内の壁の動きがおかしくなった。ぐにゃりと歪んだ。
咄嗟(とっさ)に席を立ち周囲を探りながら兎の名前を呼ぶ。

「カーディナル、お願い」
『任せてー』

私の肩の上でスタンド能力の消滅を使った。まずテーブルとイス、通信機とを消した。
突然テーブルやイス等が消えたため、座っていた水夫やテーブルに(もた)れていた水夫がバランスを崩した。
しかし彼らを気遣う余裕は貰えないようで、プロペラや何かのコードが飛んで来るのが見える。

深紅の杖を中心に半径三メートルに『消滅』の結界のような膜を張る。
この能力の出力減は深紅の杖であるため、本体を中心にして張ることは出来ない。
私には透明は膜のようなものが円を描くように張ってあるように見える。

、他の人はこの結界に触れちゃー駄目だよ。本体以外が触ると触れた部分は消滅しちゃうから』
「うわ危なっ!」

それじゃあ私のスタンドで殺しちゃうかもしれないじゃん、と言う。
そこに一人の水夫が私に向かって叫ぶ。

「お嬢ちゃん、どうし……ッ!なんだこりゃあァッ!」
「説明出来ないけどッ、死にたくなかったら私の傍から離れないで!てか三メートル以内に近寄って!」
「ひいぃッ!何なんだよオメェーらはよォーッ!!」

私の周りに身を寄せる水夫。暑苦しいしむさいのは我慢だ。
誰も殺した感触がないからか、本体のフォーエバーがのそのそと現れ、目を見開いた。
その表情をみて満足した私は一言恨みを込めて言う。

「簡単に殺させはしないんだから……!」
『僕達をナメてもらっちゃー困るよねぇ』
「まったくだよ。でもこのままじゃあ攻撃受けないけど攻撃出来ない」
『確かにー。でもそろそろ……』

兎が言い終わる前にドゴンと鈍い音がする。
私じゃない。兎でもなければ勿論水夫でもない、第三者だ。
船室内に居たフォーエバーが錠前で殴られ、血を流していた。
トレードマークの学ランと学帽。二メートル近い長身の彼。

「じょ、承太郎!」
「てめーが何をしてーのかわかんねえが、もうちったあ周りに頼りやがれ」
『じょーたろー助かったよー』

少し怒っているような口調だ。でも何だか二人(と一匹)で話すのは久しぶりな気がした。
昨日は暗青の月と闘ってたし今日は船に乗るときくらいしかまともに会話してなかった。
しかし今はそんな穏やかな空気で話をするわけにはいかない。
錠前で殴られたフォーエバーは怒りを露わに、血の出た頭部を押さえながら起き上がる。

「てめーの錠前だぜ、これは!」

そういいながら錠前を投げつけると、ごん、と鈍い音と共にぶつかり再び倒れる。
承太郎の後ろにはシャワーを浴びていたと思われる家出少女が居だ。
少しでも闘い易いように少女をこの結界内に連れて来たいのだが、いいチャンスがない。

「このエテ公……ひょっとしてただのエテ公じゃねえのか?」
「こいつスタンド使いなんだよ。家出少女を早く私の傍に連れて……っ危ない!」

フォーエバーが承太郎に掴みかかり、蹴りをいれようとする。
戦闘慣れしている承太郎は咄嗟にスタプラを出し腕で防御をする。
防御をするが、扇風機の羽がひとりでに外れて承太郎を突き刺す。

「うッ!こ……こいつが外したのか、扇風機を!だがスタンドの像が何故見えないんだ!?」
「船……たぶんこの貨物船自体がスタンドなんだよ。
 さっき物が勝手に飛んできたし、今も多分あいつが扇風機を外したんだろうし」

承太郎の肩には鋼製のプロペラが突き刺さった。
羽一枚分が肩に突き刺さり、その羽はゴムのようにグニャリと曲がる。

「プロペラが……。この貨物船自体が『スタンド』だと? 俺達以外にも見えるスタンドが存在するのか?」
「エネルギーが大きいからとしか考えられないけど……っプロペラに気をつけてッ!」
「ぶッ!」

言うのが遅かった。
承太郎は曲がったプロペラに強く弾かれ、壁に叩き付けられた。
承太郎、と叫ぶもこの場所を動くわけには行かないので見守るしか出来ない。
フォーエバーは咆哮(ほうこう)と共に自らのスタンドの窓ガラスを割ると、破片が四方に飛び散る。

「ちィッ!が言うように船自体がスタンドとしか考えられねーな!スタープラチナ!」

スタープラチナは飛び散った破片を素早い動きで掴み取ると、そのままフォーエバーに向かって殴りかかる。
しかしスタプラが殴りかかるより早く、壁に潜り込む。奴のスタンドである船は形態が変幻自在だ。

「ウキャアアア」

咆哮の後、グフ、と笑い声のような不思議な声を出して更に潜って消えていく。
警戒しながらも承太郎は家出少女に言う。

「おい、今の見たろう。俺よりあいつの傍に行きな」
「承太郎、後ろ!」

横目で少女を見ただけだがそれでも十分隙を付かれたようだ。
先程のような雄叫びをあげフォーエバーが壁から顔を出す。

「ウキャアアアッ!」
「し……しまった!」

ホースが勝手に伸びて承太郎とスタプラをまとめて縛り上げる。
縛り上げられた承太郎を心配そうに一瞥してこちらへ駆け寄る家出少女。
こちらに来た家出少女に私のブレザーとカーディガンをかけてあげる。
その間にも縛られた彼の身体は壁にめり込んでいく。

「無事で良かった……」
「ジョジョを助けて!あんたなら出来るんでしょう?」
「そうしたいのは山々なんだけど……」

ちらりと何より誰よりも戸惑っている水夫達を見る。
今は死だけを恐れ、言葉を発しないでいる彼らを一瞥すると少女を見る。

『全くもって足手まといだねー』
「無くなっていい命なんかないんだからそんなこと言わないで」

小さな声で言い返すと、真面目なんだからァ、と間延びした口調で返された。
こんな状況でそれは冗談とは思えないんですが。
何もない場所に独り言を言う私をみて家出少女は怪訝そうに眉をひそめる。

「あ、ここには見えないけど兎のお化けみたいなのが居るの。
 ともかく、承太郎なら何とかしてくれる。だから承太郎の反撃が始まったら
 彼らをボートに乗せに行くからあなたも付いてきて?」

「そんなの勝手に行かせればいいじゃない!あんたたち仲間じゃないの?」

声の調子が少し強くなった。
付いて行くのが嫌なのか承太郎が心配だからなのかは分からない。
でもこんなところで負ける承太郎ではないのはわかっているので答える。

「仲間だよ。仲間だから承太郎は負けないって信じれるの。今は承太郎の邪魔にならないようにしないと。
 そのためにはあなたも含め、全員を護るためには私の半径三メートル以内に居てもらわないといけない」

こうしている間にフォーエバーは船長を気取り、白い制服に身を包み帽子を被る。
そして自由を奪われた承太郎に辞書を突きつけ【Strength(ストレングス)】のページを開いてみせる。
見せると後は片手に持っていたルービックキューブで遊び始めた。

その隙にスタプラがパイプ管を外して投げようとする。
だがすぐに気付かれてしまい、両腕をしっかり固定されてしまう。
フォーエバーはにやにやと嫌らしく勝利を確信したような笑みを浮かべる。
そしてルービックキューブを握りつぶし、私達の方に近付いてくると家出少女や水夫が悲鳴を上げる。

「絶対に離れないで。大丈夫、私達が護るから」

すぐそこまでフォーエバーが近付いてきた時、何かがフォーエバーにぶつかったようで歩みを止めた。
承太郎が制服のボタンを外して投げたのだ。

「そのボタンはてめーの『スタンド』じゃあねーぜ。、行くなら行きな」
「う、うん。大丈夫だよね?」
「当然だ。この確信した勝利の誇りを傷付けられて、怒り狂うエテ公に負けるわけがねえ。
 いや……エテ公に誇りなんぞねーか」

早く行け、と言われ水夫と家出少女を連れて階段を駆け上がる。
駆け上がればもうフォーエバーは攻撃をしてこないと思うが念のため先に水夫達を行かせる。
甲板を駆け抜けていく途中に何か声が聞こえた気がしたが、何よりも彼らを逃がさなければ。
タラップを降りて二(そう)あるボートうち一艘に全員を乗せて彼らと別れを告げる。

「巻き込んでしまってごめんなさい。どうかお気を付けて」

深々とお辞儀をして踵を返す。あとは彼らの運に任せよう。
家出少女の手を引きながら再びタラップを駆け上がり、甲板を見渡す。
するとジョセフさんたちが床に沈んでいるのを見つけて駆け寄る。
先程の声はジョセフさんたちだったのだ。

「みみ皆、大丈夫……じゃないよね。カーディナル!お願い!」
『うぃー、でももう疲れたァ』
……承太郎は?」

兎は地面に接している部分を少しずつ消していく。
そこでジョセフさんが口端から血を流しながら尋ねる。

「船室あたりでオランウータンと戦闘してます。このスタンドの本体の」
「そうか……」

下を指差しながら少しずつではあるが四人が埋まっている場所を少しずつ消していく。
胸部、腹部、大腿部とゆっくり出てきた。

「何よりお前が無事でよかった! 急に姿が見えなくなったから心配したんじゃぞ!」
「ジョセフさん……ごめんなさい。でも今はまだ喋らないで下さい、傷に障ります」

四人は圧迫されていたため、呼吸が荒い。
口元の血を拭いながらゆっくりと立ち上がって船の異変に気付く。

「なんかこの船歪んでねェ?」

先に気付いたのはポルナレフだった。
次に家出少女が私の腕にしがみ付くようにして言う。

「ゆ、歪んでいる……わ。この船グニャグニャになってるわ!」
「おい。たまげるのは後にしな。脱出するぜ……乗ってきたボートでな」

ぬーっと姿を現した承太郎。崩壊し始めたのはフォーエバーを倒したからだ。
一同は彼の無事を安堵するが、ゆっくりしている時間はないようだ。
急いでタラップを降りて残っていた一艘のボートに乗り込む。
そして崩れゆく(ストレングス)で立派に見せていた船を見る。


「あの猿は自分のスタンドで海を渡ってきたのか……。恐るべきパワーだった」

「我々は完全に圧倒されていた。承太郎とが気付かなければ、間違いなく……やられていただろう。
 しかしこいつ以上の我々の知らぬ強力なるスタンドとこれからも出会うのか?」

「…………」

「ガムかむかい?」

ジョセフさんアヴドゥルさんは心配そうにこれからを見据える。
花京院は無言で髪を梳かし、承太郎は煙草に火をつける。
ポルに関しては皆にガムを勧めている。私は遠慮なくガムを頂戴して口に含む。

「もぐもぐ……これでまた漂流に戻ったね、もぐもぐ」
「そうだなァ。まあ潮風に吹かれるのも悪くはねーよな」

ニカッと白い歯をみせて笑うポルナレフ。
承太郎は煙草に火をつけようとライターに火を点けるが煙草がしけて火が点かない。

「やれやれ。モクがしけちまったぜ」
「乾かす太陽と時間はあるぜ、承太郎」
「あとは無事救助されてシンガポールにつけることを祈るしかないな」

ポルナレフは笑いながらいい、アヴドゥルさんが心配そうに言う。
怪我をしていたようだがユーモアを言う余裕があるので大丈夫そうだ。
それをみて安心して兎を抱きながらボートの壁に凭れ掛かる。

「日本を出てもう四日経ったんだなあ。ともかく腹が減って仕方ないよ」
『ねー。僕もう疲れたから寝るよ、ふあ……』
「私もー……ぐう」

凭れ掛かったときから睡魔に襲われ、目蓋を閉じるとあっという間にまどろみの中へと意識を手放した。
ひたすらスタンドを使い、人を護る責任感とプレッシャーと初めて闘ったので疲れてしまったのだ。
波に揺られる感覚は、慣れればゆりかごみたいな優しいもののような気がする。





「うわ、のやつ寝てるぜッ!早ェ!」
「慣れない戦闘とショッキングな事もあって疲れたんだろう。寝させてやれ」
「……やれやれ」

それから数時間後に通りかかった漁船に救助され、シンガポールに着いたのはまた別のお話。
















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2009/11/07