肉の芽を抜いたポルナレフも共に連れて、港へと向かう。
深く青い空は眩く輝き、潮の匂いは鼻をつく。ついでにウミネコも鳴いている。

不謹慎だけどバカンスで来てたら海水浴を楽しみたかった。
仕方ないのでウミネコにえびせんあげて我慢することにしよう。
ジョセフさんがチャーターした船は乗客は乗せず、乗組員のみが搭乗しているらしい。
確かにお客さんを乗せて事故に遭ったら危ないしね。

私は近くにか●ぱえびせんか何か売ってないか探しながら歩いていた。
その余所見のため、後ろを歩いていたポルナレフにぶつかってしまった。
咄嗟に謝ったが、彼は普段より幾分か険しい表情をしてジョセフさんを見る。

「ムッシュ・ジョースター。物凄く奇妙な質問をさせて頂きたい」
「奇妙な質問?」

はて、と首を傾げるようにポルナレフの顔を見る。
ポルナレフは少し遠慮がちに間を置いてからジョセフさんの左腕を指差す。

「……詮索をするようだが、あなたは食事中も手袋を外さない。
 まさかあなたの『左』腕は『右』腕ではあるまいな?」

「……?『左』腕が『右』腕?左が右?確かに奇妙じゃ……。
 一体どういうことかな?」

冗談ではないかと思ったが、その強い眼差しに強い怒りのようなものを感じたのか理由を伺う。
ポルナレフは青い空と碧い海を背に、強い眼差しのまま口を開く。

「妹を殺した男を探している。顔はわからない。
 だがそいつの腕は両腕とも右腕なのだ」

皆が息を呑み、ポルナレフを見た。
ジョセフさんは手袋を外し、五十年前の闘いによる名誉の負傷だ、と義手を見せた。
それを見たポルナレフは失礼な詮索だった、と謝罪をし許しを請いながらも語り始める。
―――三年前にポルナレフに振りかかった悲劇を。

私はどうにか購入することが出来たえびせんの袋を開けて、一本を口に放り込む。


ポルナレフの妹さんは、雨の日に学校の帰り道を友人と二人で下校していた。
彼らの故郷であるフランスの田舎道だ、と海の方を向いて言う。
その道の端に一人の男が背を向けて立っていた。
男の周りには透明の膜でもあるかのように、雨がドーム状に避けて通っていた。
友人の生徒は胸をカマイタチにでもやられたかのように裂け、妹さんは辱めを受け殺された。

「男の……ヤツの目的はそれだけだったんだ……」

九死に一生を得た友人の証言では、その男は両腕とも右腕だったという。
その証言を信じる人はポルナレフ以外誰も居ない。彼以外はスタンドの存在を知らないからだ。

「おれは誓ったッ!我が妹の魂の尊厳と安らぎは、そいつの死を持って償わなければ取り戻せんッ!
 おれの『スタンド』で然るべき報いを与えてやるッ!」








15









その後にDIOに会い、妹さんの仇である両腕右腕の男を探しだす事を条件に
承太郎たちを襲いに来たのだという。それが正しいことだと信じてね。

「DIOって人の心の隙間に付け入るのが上手いねえ」
「ああ。しかし話から推理するとどうやらDIOは、その両手とも右腕の男を探し出し、仲間にしているな」

私と花京院が口々に言うと、タイミングよくパアーッと汽笛が海原を駆ける。

「おれはあんた達と共にエジプトに行くことに決めたぜ。
 DIOを目指していればきっと妹の仇に出会えるッ!」
「ポルナレフ、絶対妹さんの仇をとろう!私も捜すの協力する!」

ありがてぇぜ!と拳を握るポルナレフ。
そこに観光客と思わしき女性が、ハートを撒き散らしながら承太郎の傍に二人で近付く。

「すいませーん、ちょっとカメラのシャッター押してもらえませんか?」

この話の流れだとKYと思わなくもないが、関係ない人たちはそんなの知る由もないので仕方ない。
しかし承太郎は鬱陶しく思うわけであからさまに不機嫌になり、他のヤツに言え!と怒鳴る。

「こら承太郎!」
「まあまあ。写真ならわたしが撮ってあげよう」

そう言って観光客の女性(ミニスカ)を連れて写真撮影を始める。
彼の狙い目は太ももらしい。ちらちら見てる。

「なんか分からぬ性格のようだな」
「随分気分の転換が早いな」
「というより頭と下半身がハッキリ分離しているというか」

アヴドゥルさん、花京院、ジョセフさんが口々に言う。
観光客のお姉さん方の目が点になってるよ。
その光景をみて承太郎が溜息混じりに言う。

「やれやれだぜ」





それから船に搭乗し、海に出たジョースター一行。
厚い雲が真夏ように暑い日ざしを反射して眩いほどに輝いている。

「香港からシンガポールまでまる三日は海上だな。まっ……ゆっくりと鋭気を養おう」

そう提案するジョセフさんの格好は先程とは打って変わって、涼しそうなボーダーのタンクトップだ。
他の水夫たちもボーダーだから水兵服かなとか思う。
私も暑苦しい上着を脱いで、ブラウスを捲くって涼む。
先程買ったえびせんを上に投げればうみねこがキャッチするので、何度かそれを繰り返す。

それを楽しそうに目を細めて見るジョセフさんは、私を指差しながら長ラン二人組みを見る。

「その学生服なんとかならんのかァ?を見習わんか、あんなに涼しげな格好をして……」
「どこ見てんだスケベじじい」

承太郎の冷静な言葉にも全く引かず、スパッツさえ穿いてなければなあ、と声をもらすジョセフさん。
その背中に やだなあもう、と照れ笑いしながらばしばし叩く。

「僕らは学生でして、ガクセーはガクセーらしくですよ……」
「ちょい待ち!それじゃあ私が学生じゃないみたいな言い方じゃないかっ!」
「ああすまない、も居たんだったね」
「むきーっ!また馬鹿にして!うみねこに襲われちゃえー」

くすくすと笑いながら言う花京院は読書をしている。
なんの本か分からないけど、この揺れる中で読書が出来るのが凄い。
しかし私はえびせんを花京院の頭上に高く投げた。
頭に触れるぎりぎりでうみねこがキャッチしたが、花京院は驚いていた。

「吃驚した。というかいつの間に買ったの、ソレ」
「さっき港でー。食べる?」

いやいい、と遠慮されてしまった。
そういい終わるかどうかくらいに、離せボンクラがーッ!と中性的な声が響いた。
どうやら船倉に隠れていたのを水夫に発見されたらしい。密航者にしては幼く、十代前半の子だ。

「密航?」
「あら」

ジョセフさんの声と私の声が重なる。
小さな密航者はタマキン蹴り潰す、なんて下半身が萎縮しそうな物騒な言葉をあげる。
しかし警察に突き出す、と言われると立場は一転し、許しを請う。

「シンガポールにいる父ちゃんに会いに行くだけなんだ。
 何でも仕事するよ。コキ使ってくれよ〜」

涙ながらに請う姿に可哀想に思えたが、水夫はそんなことは気にせず許すことはなかった。
そこで腕に噛み付き、咄嗟に海に飛び込む。私は追いかけるように手すり間際まで近寄る。
水飛沫をあげながら密航者は泳いでいるが、大きな魚影が見える。

「飛び込んだぞ、元気ィーっ。っておい?何してんだよオイ」
「何って……あの子助けに行く」
「けっ……放っときな。泳ぎに自信があるから飛び込んだんだろーよ」

ポルナレフはやんややんやと持てはやすが、手すりに足を掛ける私に手を掛けて制止する。
制止するのはポルナレフだけでなく承太郎もだ。彼は呑気にまだイスに腰掛けている。

「泳ぎに自信あってもあれじゃあ死んじゃうよ。行くよ、カーディナル」
『あいあいさー』

どこからともなく白い毛並みの良い兎が現れる。声色の調子も良い。
そう言って手すりを蹴って飛び込む。飛び込みながら肝心なこと思い出した。

「あ、私立ち泳ぎ出来ないや。てか泳ぐの苦手だった」
『馬鹿ーっ!』

てへ★と精一杯可愛いポーズをするが、兎は聞き流す。
一応泳げるが人並み以下しか泳げないのをすっかり忘れてしまっていた。。
そこに水夫が声を上げて この変は鮫が集まってる海域なんだ!と言う。
そんなのさっき鮫の姿確認したし、周り見てりゃあわかります。

「家出少女やーい。戻っておいでーがぼがぼ」
『沈んでる沈んでる』

ジョセフさんとポルナレフがが口々に戻れ!とか鮫がいるぞォとか言うが戻れません。
密航者こと家出少女がそれに気付くが私は間に合いそうもない。というか私自身が今にも死にそうだ。
いくら泳ぐのが速くても魚類には敵わず、家出少女の目の前まで鮫が迫ってくる。

「ひ……っ」

彼女は喉が引きつるように声を上げる。その距離はあと少しに差し迫ったとき。

「オラオラオラーッ」

スタプラが片手だけで鮫を打ちのめした。
その隙に承太郎は家出少女とついでに私を回収してくれた。

「えーと、なんか……面目ない……」
「てめぇ……泳げないのに飛び込むな。こっちのくそガキもやれやれだぜ。ん?」

しょんぼりしてる私を余所目に承太郎は少女の身体をぺたぺた触りまくる。
私はちょ、ちょ、と制止を掛けるが彼女の帽子を勢いよく取ってしまう。
はらりと綺麗な漆黒の髪が解けたように垂れてくる。この方が可愛い。

「女か……それもまだションベンくせえ……」
「よ……よくもオレの胸をじっくり触りやがったな」
「承太郎のえっちー」
『えっちー』

ちくしょー、と手を上げる家出少女をかわして私と兎にむかって やかましい!と怒鳴る。
怒鳴りながらも私と家出少女を抱えながら船へと移動する。
これで船に再び上がり、さあ再出発だ!と言うわけにもいかないらしい。


鮫にまぎれて鮫以外の何かも近付いてくる。

「承太郎ッ!下だ!海面下から何かが襲ってくるぞッ!鮫ではない!」
「!?」

船上にいるジョセフさんが必死に叫んで伝えてくれる。
承太郎は後ろをチラリと見るともうすぐそこまで鮫ではない『何か』が近付いてきていた。
カエルのように水掻きがある手と、びっちりと鱗がついている体。
ジョセフさんは船まで急げ、と言うがまだまだ遠すぎる。
そうしている間にも何かは近付いてきている。

「あの距離なら僕に任せろッ『法皇の緑(ハイエロファントグリーン)』ッ!」

間一髪のところで法皇の緑が伸びて、私達を掴み、引き上げてくれた。
標的を失った『何か』は船から投げられた浮き輪を壊して姿を消した。


引き上げられた後に家出少女は皆に疑いの眼差しを向けられた。
しかしDIOの話をしても全く気にする素振りもなく、花京院にむかってドサンピン発言をし
スタンドも見えていないことから普通の女の子と判断された。
疑いが晴れたのはいいが、船長の登場により、少女は密航者と言うことで軟禁される羽目になった。
紫煙をくゆらせながら承太郎はその様子を黙ってみていた。他の人たちも然りだ。
少女をギリギリときつく押さえつける船長にジョセフさんは尋ねる。


「船長……お聞きしたいのですが、船員十名の身元は確かなものでしょうな」
「間違いありませんよ。全員が十年以上この船に乗っているベテランばかりです。
 どうしてそんなに神経質にこだわるのかわかりませんけれども……」

ところで、と承太郎が咥えていた煙草を船長が取り上げる。

「甲板での喫煙はご遠慮願おう。君はこの灰や吸殻をどうする気だったんだね?」

船長は言葉を続けながら承太郎の学帽に吸殻を擦りつけ、鎮火した。
その様子を固唾を呑んで見守る一行。と怒りに震える私。

「待ちな。口で言うだけで……」
「あー腹立つ!あんたなんか船長じゃない。
 偽船長の正体はタロットカードの『月』を暗示するスタンド使いだよ!」
『ちょ、馬鹿、何言って……』

むきーっと承太郎をこけにしたような船長の言い方に腹が立ち、承太郎の言葉を遮り宣戦布告をした。
しかし言った後に後悔。サーッと熱が引いていく。

?『月』のタロットカードだって?まさか船長がスタンド使いなのか……?」
「適当なことを言うんじゃねェぞ!」

ジョセフさんとポルナレフが何だ何だと言わんばかりに、私を見る。
アヴドゥルさんも困惑させるだけだ、やめなさい、とたしなめる。

「いや、の言うとおりだせ。こいつは船長なんかじゃねえ」
「承太郎……!」

このタイミングで言ってくれて助かった。
何を思い助け舟を出してくれたのかは知らないけれど、ほっと胸を撫で下ろす。
私がタロットカードを言い当てた時に一瞬目を瞠ったが、船長は円らな瞳でコチラを見る。
きょとんとした表情だ。おっさんがやっても可愛くないです。

「スタ……ンド??なんだねそれは……一体」
も承太郎もどうしたんじゃ!このテニール船長はSPW財団の紹介を通じ、身元は確かだ。
 信頼すべき人物。スタンド使いの疑いはゼロだ……」

敵味方含め困惑の色を隠せない。
しかし承太郎は確かに自信を持って言う。

「『スタンド』使いに共通する見分け方を発見した。
 それは……スタンド使いは煙草の煙を吸うとだな……鼻の頭に血管が浮き出る」

つん、と鼻の頭を触る承太郎。
ジョセフさん、アブドゥルさん、花京院、ポルナレフ……そして船長が鼻の頭に手を添える。
唯一家出少女だけが手を添えず、不思議そうな面持ちでこのやり取りを見ていた。

「嘘だろ承太郎!」

ポルが驚きながら言うと、小さく承太郎は笑いながら言った。

「ああ嘘だぜ。だが……間抜けは見付かったようだなッ!」


あ、と声を漏らす船長に続くように一行も声を漏らした。
間抜けみーっけ。















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2009/10/27