私たちは料理店を出てタイガーバームガーデンへ向かった。 それはポルナレフがアヴドゥルさんの能力を発揮できる広い場所を選んだためだ。 ここに来る前に、元始世界を包んでいたのは炎だとポルが言っていたのを思い出した。 アヴドゥルさんのスタンドも始まりを意味しているとも言っていた。 なんか私のカードの暗示と被っちゃあいませんか?ねえねえ。 「ま、まあ私は物事の始まりだしねッ!」 「突然何言い出してんだ?」 「いやいや!こっちの話!すごい彫刻だね、初めて見た!」 「ああそうだな」 咄嗟にタイガーバームガーデンの仰々しい人形やら仏像やらを指差す。 承太郎も気に留めた様子もなく指を指されたほうの彫刻をみる。 良かった、話を逸らすことが出来てホッと胸を撫で下ろす。 「何を作りたかったんだろーな」 「……ノーコメントで!」 ソレを言っちゃあおしまいなんだぜ承太郎。 でもこの極彩色に彩られた人形達とは元の世界ではおそらく会えないので、じっくり見てみる。 地獄とか極楽を表しているだけあって、グロいというか、そうだなあ一言でいうならキッチュだ。でも。 「ちゃっちいなあ」 「こら、そんなことを言っちゃあ駄目じゃないか。 ここでそんなこと言うと呪われるって話だよ」 「えっ……末代まで続く祟りとか、そんな感じ?」 うそ!心からちゃっちいって思っちゃったよ。 もし末代まで祟られたら子孫達よ、すまん。 何だか罪悪感に苛まれるがともかく自分はお祓いに行けばいいかな、とか思った。 ジョセフさんの知り合いになら、お祓いに詳しい人とか居そうだし。 「花京院本当なのか?」 「いや冗談だよ。どんな反応するのか気になってね、フフ」 「!騙したなーっ」 の未来の血筋達よ、安心してください。 こんちくしょー花京院の嘘だったようだ。 14 一方アヴドゥルさんVSポルナレフ。 先程の私たちの会話はこの戦闘の最中に起こってました。ごめんなさい。 とは言ってもお互いスタンドを出して、ポルがアヴドゥルさんに予言をしてたところなんだけどね。 「貴様は貴様自身のスタンドの能力で滅びるだろう」 と自信に満ち溢れた声色で言っていた予言をね。 確かにポルは強い。剣の技術は尊敬ものだ。 炎も空気も切り裂けるって言ってたしね。 チャリオッツが重なりあった五枚のコインを突き刺したあれは、すごかった。 承太郎は横目でアヴドゥルさんを見て、声を掛ける。 しかしアヴドゥルさんは手を出すなと言う。 「奴の言うとおりこれだけ広い場所なら、思う存分『スタンド』を操れるというもの」 そう言い終ってすぐにチャリオッツが斬りかかってくる。 しかしマジシャンは炎を出さずにただ避ける。 するとチャリオッツは高速に突きを繰り出してきた。 「危ない!」 マジシャンは炎を出して回避するも、チャリオッツはその炎を受け流す。 受け流した炎が岩に当たり、先程の突きで彫っていたのだろう。 マジシャンそっくりの像を彫っていたのだ。うん、すごいそっくり。 「野郎ッ!こ、こけにしているッ! 突きながら『魔術師の赤』にそっくりの像を彫ってやがった!」 「なかなか……ククク。この庭園にマッチしてるぞ、『魔術師の赤』」 ジョセフさんは拳を強く握って憤り、ポルは楽しそうに笑みを浮かべる。 しかしアヴドゥルさん本人は冷静さを保つ。 だが、今にも何かを繰り出しそうなそんな雰囲気が漂っていた。 「む!来るな……本気で能力を出すか……」 ポルは受けて立つ、と言いながら次に出る技に備えて構える。 そこでジョセフさんが何かに気付き私たちに注意を促す。 「承太郎、何かに隠れろ。アヴドゥルのあれが出る。 ……とばっちりで火傷するといかん。もおいで」 「あれだと?」 「そんな危ないんですか?」 岩陰に私たちは隠れて、こっそり顔を覗かせる。 ジョセフさんが答えるまででもなく答えはわかった。 「クロスファイヤーハリケーン!」 そう叫び、マジシャンは両手を交差させ十字架の炎を吐きながら回転する。 回転したそれらの炎はポルナレフに向かって飛んで行く。 しかしポルナレフは余裕の笑みを浮かべて剣を振る。 「これしきの威力しかないのかッ!? この剣さばきは空と空の溝を作って、炎をはじき飛ばすと言ったろーがァァ!」 言い終わると炎は弾かれ、マジシャンに当たってしまった。 マジシャンは炎に包まれて悶えているように見える。 ジョセフさんはわなわなと震えながら、燃えるマジシャンを見ながら言う。 「あ……アヴドゥル……。炎があまりも強いので、自分自身が焼かれているッ」 承太郎も花京院も何も言わず呆然と見ている。 ポルナレフの顔には勝利の文字が刻まれていた。 「ふはは!予想したとおりだな。 自分の炎で焼かれて死ぬのだ、アヴドゥル……」 それでもアヴドゥルさんは炎で焼かれているマジシャンを、ポルナレフへと放つ。 ポルナレフはあーあ、見苦しい、と呆れたように言い、チャリオッツでマジシャンを斬る。 「み……妙な手ごたえッ!こ、これは……人形ッ!?」 気付いたときには既に遅しと言わんばかりに、燃えたマジシャンの人形から炎が移る。 チャリオッツは炎に包まれ、本体のポルナレフもブスブスと燃え始める。 「炎で目が眩んだな。貴様が切ったのは『銀の戦車』が彫った彫刻の人形だ! わたしの炎は自在といったろう。火炎が人形の関節部を溶かし、動かしているのだ。 自分のスタンドの能力にやられたのはお前のほうだったな!」 マジシャンの人形は炎が消え、ガシャン、と音を立てて崩れた。 そしてアヴドゥルさんからは本物のマジシャンが顔を出している。 「そしてわたしのクロスファイヤーハリケーンを改めてくらえッ!」 そう言うとマジシャンの放った大きな十字型の炎は、チャリオッツに当たった。 「占い師のわたしに予言で闘おうなどとは、十年は早いんじゃあないかな」 形勢逆転を決めたアヴドゥルさんは、にやりと笑う。 「アヴドゥルの『クロスファイヤーハリケーン』恐るべき威力! まともにくらった奴のスタンドはバラバラでしかも溶解してもう終わりだ……」 「ひでー火傷だ。こいつは死んだな。 運がよくて重症だな……いや、運が悪けりゃかな……」 ジョセフさんと承太郎は振り返るようにポルナレフを見る。 今もまだポルナレフからはブスブスと煙が出ている。 「どのみち三ヶ月は立ち上がれんだろ……。スタンドもズタボロで戦闘も不可能! さあ!ジョースターさん我々は飛行機に乗れぬ身……エジプトへの旅を……」 「まだだよ」 「?何か言ったか?」 自分でも何言ったのわからなかった。 答えてくれたのは承太郎だったんだけど、言うつもりなかったのに口が勝手に動いたかのようだ。 そう言ったのと同時に後ろから、つまりポルナレフの居るほうから爆発音が聞こえた。 咄嗟に全員が振り向く。よかったこれで気が逸らせただろう。 振り返るとチャリオッツの甲冑がポンポン外れていくのだ。 そしてポルナレフ自身が真上に飛んで空中で反ったような体勢になる。 「ブラボー!おお……ブラボー!!」 パチパチ拍手までしている。 その姿勢のままコッチに移動してきたら楽しいのに。 ……いや、怖いな。来なくていいです。 承太郎が火傷が軽症なこと、宙に浮いていることを尋ねる。 すると感覚で見てみろと言われ、見てみると甲冑を外したチャリオッツがポルを支えていたのだ。 その後地に立ち、甲冑を外したチャリオッツとポルが構える。 「これだ!甲冑を外したスタンド『銀の戦車』! あっけに取られているようだが、わたしの持っている能力を説明せずに これから君を始末するのは騎士道に恥じる、闇討ちにも等しい行為。 どういうことか……説明する時間をいただけるかな」 騎士道と言うか敵にも敬意を払うポルナレフに、アヴドゥルさんは説明を乞う。 適度な間合いを保ち、タイガーバームに砂煙が巻き上がる。 「スタンドはさっき分解して消えたのではない。 わたしのスタンドには『防御甲冑』がついていた。 今脱ぎ去ったのはそれだ」 つまりさっき焼かれたのは甲冑の部分だったから軽症で済んだのか。 脱ぎ捨てたことから身軽になり、さきほどの見えないくらいのスピードの動きが出来たという。 だから重みがない今は攻撃を食らったら命はない。 しかしポルナレフは食らわない、今からゾッとすることを見せるという。 「ほう、どうぞ」 アヴドゥルの返事を合図にポルナレフの背後には七体のチャリオッツが現れた。 晴天の空に銀色の甲冑が浮かぶ。日光を反射してるから眩しい。 「な、何じゃ!?奴のスタンドが六……七体にも増えたぞッ!」 「ば……馬鹿な!スタンドは一人一体のはず!」 「よく見て。あれ残像だよ」 ジョセフさんも承太郎、花京院も動揺を隠せずにチャリオッツを見る。 そこについ、またも口を挟んでしまう。思わず口元を押さえるが、時遅し。 「アヴドゥル含む四人はゾッとしたようだが……。まあいい。 これはお察しのとおり残像だ。視覚ではなく、感覚にうったえるスタンドの残像郡だ」 「、よくわかったな」 ポルに一瞥され、標的が変わったらどうしようかと思ったが大丈夫だった。 ジョセフさんには驚いた表情でこちらを見られたが、くしゃりと頭を撫でられた。 撫でられてホッとしたのも束の間で再び攻撃が始まる。 「おおおお!クロスファイヤーハリケーン!」 「ノンノンノンノンノンノン! 無理と言ったろう。今のは残像だ」 アヴドゥルさんの放ったC・F・Hは地面に穴を開けるのみで、ポルナレフへの攻撃にはならない。 それどころかアヴドゥルさんの顔には十字架の傷が刻まれてしまう。 こんな正確な攻撃が出来るのは数回の練習じゃ到底無理だ。 相当訓練しなきゃできる技じゃない。 ポル自身も十年近く修行したと言ってるし。 みんなが心配そうに見守る中、アヴドゥルさんはまだ瞳の奥に闘志を宿していた。 まだ打つ手はある、とでもいうような強い闘志の光を。 「騎士道精神とやらで手の内を明かしてからの攻撃……礼に失せぬ奴。 ゆえにわたしも秘密を明かしてから次の攻撃に移ろう」 「ほう」 顔面から滴る血を拭いながら比較的穏やかに言う。 闘いの中でもやはり相手を尊敬して敬う気持ちって大事だよね。 ポルナレフも感心したように黙って耳を貸す。 「実はわたしのC・F・Hにはバリエーションがある。 十字架の形の炎だが一体だけではない。 分裂させ数体で飛ばすことも可能!」 にやりと不敵な笑みを浮かべて息を吸い込む。 「クロス・ファイヤー・ハリケーン・スペシャル!」 大きく幾つもの十字架がチャリオッツに降りかかる。 しかしポルナレフは臆することなくチャリオッツに円陣を組ませて立ち向かう。 そこにジョセフさんや承太郎と花京院が冷や汗を流しながら言う。 「駄目だ!奴のスタンドらが円陣を組んだ形をとったッ!」 「死角がないッ!」 「弾き返されてまた炎を逆にぶつけられるぞ!」 三人の言葉通り炎はチャリオッツによってまとめられてしまう。 ポルナレフの表情は勝利を予期して笑顔がこぼれる。 「前と同様このパワーをそのまま貴様にィーッ!」 チャリオッツによって切断され、炎は跳ね返された。 しかしその時チャリオッツの目の前の地面に穴が開いた。 ポルナレフは驚いたが対処する間もなく、穴から出てきた十字の炎に焼かれる。 肩膝をついたアヴドゥルさんの足元を見てみると、穴が開いている。 そこにクロス・ファイヤー・ハリケーンを打ち込んだのだ。 「一撃目はトンネルを掘るためのものだった……。 言ったろう、わたしの炎は分裂し何体にもわかれて飛ばせると!」 スタンドの受けた攻撃は本体に還ってくる。 その言葉どおりにポルナレフの全身は炎に包まれる。 しかし悲鳴のひとつも上げやしない。すごいな。 そこにアヴドゥルさんが短剣を片手に歩み寄り、投げる。 短剣はポルナレフのすぐ目の前の地面に突き刺さった。 「炎に焼かれて死ぬのは苦しかろう。その短剣で自害するといい……」 そう言って踵を返す。 ポルナレフは短剣を取って振りかぶるも、ふと思い直したかのように剣先を自分の喉元に押し当てる。 しかしそれさえも躊躇し、短剣を手放す。 「自惚れていた……炎なんかに、わたしの剣さばきが負けるはずがないと。 やはりこのまま潔く焼け死ぬとしよう。 それが君との闘いに敗れたわたしの、君の能力への礼儀……自害するのは無礼だな」 その言葉を聞いた途端に、アヴドゥルさんは振り返り炎を消す。 私は承太郎が笑うのを見逃さなかった。口端を上げただけだけどレアだ。 「……よっしゃー!」 「そんなに嬉しいのか」 「うん!うへへ」 笑い方の所為で承太郎にドン引きされてしまったが気にしない。 ここで間違えてもらいたくないのが、ポルが助かったからではなくて 承太郎のニヤリ顔が見れたのが嬉しかったからだ。 「承太郎……コイツの額に……」 「あ?ああ」 話を進めていたアヴドゥルさんはポルの額を指差した。 額にはヒクヒクと動く肉の芽がついていて、承太郎がスタプラを出して取り除いてくれた。 「うえぇ〜この触手が気持ち悪いんじゃよなァ〜」 「あはは!でもジョセフさんこの前波紋疾走で倒したのにー」 「倒せても気持ち悪いもんは悪いだろォ。早く抜き取れよ!早く!」 ジョセフさんが本気で嫌がっているのを見て、花京院と私は顔を見合わせて笑った。 しかし抜き終わった途端に元気になり、満面の笑みで言った。 「……と!これで肉の芽がなくなって、にくめないヤツになったわけじゃな」 「花京院。オメーこーゆーダジャレ言うヤツってよーッ!無性に腹が立ってこねーか!」 「あはははっ」 ふんっと鼻を鳴らす承太郎を見て、腹を抱えて笑う私と小さく微笑む花京院。 タイガーバームガーデンに差し込む日差しは何だか強くて暑かったけど ここでの出会いより熱い出会いってないよねッ? ……とか言ってみる。 ともかく、空路を断たれた今海路を進むしかない。 私達はタイガーバームガーデンを後に港へと向かった。 BACK<<★>>NEXT ※タイガーバームガーデン:ちなみに香港の方は現在立ち入り禁止。 現在は外からのみ楽しむことができ、シンガポールの方は現在5ドルで入場できるとか。 どうでもいい豆知識でした。 2009/09/19 |