朝、私の身体に異変がありました。 悪い意味での異変じゃあありません、寧ろ良い異変なんだけど。 「ええぇぇーっ!」 『うるさいなぁ......どうしたの?』 上手く言葉にならない言葉が口を動かし、ぱくぱく動く。 そして隣で眠っていたらしい目を擦る兎に左腕を指差す。 仕方なしに聞いてくる、この嫌に鮮やかな赤目の兎が私のスタンドの深紅の杖である。 個人的には“兎”か“カーディナル”と呼んでいる。名前を呼ぶと喜ぶ変なヤツ。 勝手に出てきていた私のスタンドに関するツッコミはしないでおこう。 「うううう腕!」 『腕じゃわかんないよ、馬鹿』 “馬鹿”と言いつつもその言葉の調子は軽く、笑っているようにさえ聞こえた。 そう、誰だって先程の単語だけでは理解できない。落ち着こう。 私が言いたいのはそう、怪我。腕の怪我が治っていたのだ。 昨日の兎の言葉通りに私の腕には昨日まであった痛みはなく、それどころか動かしても違和感はない。 つまり怪我なんかなかったかのように完治してしまったのだ。一週間程度で。 それほど大した怪我ではなかったのか、治癒力が高いのか。 はたまたそれではない何かのお陰か。 取りあえず、怪我が完治したのならギプスはもう必要ない。 私は兎に腕を突き出し、ねえ、と声を掛ける。 「カーディナル、ギプスだけ消せる?」 『消せるよ。そんなの朝飯前さ。でも間違って腕ごと消したりしてね、うしし』 何とも笑えない冗談を言う兎だ。そんでもって憎たらしい。 このやろう、と鼻をツンと小突くと あいた、と可愛らしい声を上げて鼻を押さえる。 鼻を押さえながらも腕に近寄り、手(いや前足か)を置くと一瞬にしてギプスが消えた。 骨折のあとは本来筋肉が萎縮してしまったり、関節が固まってしまったり拘縮が起こるものだ。 しかし私の場合ギプスをつけていた期間が短かった所為か、それらは起こっていない。 不幸中の幸いだが、私は兎に問い詰める。 「……あんた私に何したの?」 『僕知らないもん。の持ち前の自然治癒力が更に発達したんじゃない?』 「人の治癒力がそこまで発達するかッ」 『僕知らないもーん』 まるで私が野生的かのような言い方して! 兎は知らないの一点張りで他に喋ろうせず、顔を逸らす。 そしてそのまま勝手に姿を消してしまう始末だ。 仕方なしに溜息を吐いて、制服に着替える。 意思と言うか個人の人格があるのはとても面倒だ。メローネのBFを思い出す。 メローネも大変だったんだなァ......と勝手に脳内で身内か何かになったつもりになる。 そしてこの世界に来てからの毎日の日課である、ホリィさんのお手伝いのため台所へと足を伸ばす。 11 お手伝いに行ったときに、私の怪我が治っていることに気付いたホリィさんは驚いていた。 若いから怪我の治りも早いのね、なんて言って笑ってたけど気味悪がられてなきゃいいな。 朝食の準備も終わり、学生組の私と承太郎は先に朝食を済ませた。 昨日あのまま空条家に泊まっていった花京院にも声をかけようと思ったが、 まだ休んでいた方がいいと二人で判断し、今日は安静を取らせることにした。 承太郎は食べ終わるとさっさと部屋に戻ってしまい、私は洗い物をしようと流しに立った。 「あ、ちゃん。後片付けはいいから支度してらっしゃい」 ふと掛かった声はホリィさんのもので、洗剤を片手に私の背中を押す。 私はどうしたものかと戸惑う。 「え?でも……」 「今日はあの子はりきって学校行くつもりみたいだから。 承太郎に置いて行かれちゃうわよ?ふふっ」 不良なのに真面目なのよ、と笑いながら言う。 それからカチャカチャと食器を洗い始めるホリィさん。 「あ、準備したら承太郎連れて食器拭きに来ま……来るから!」 「はァーい」 ホリィさんの明るい返事を聞いてから、慌てて台所を出て部屋に戻る。 いけない。また敬語を使いそうになった。 支度を終えて鞄を持ち、長い廊下を歩いていると丁度良く承太郎と会った。 承太郎はこっちを一瞥してから顔を逸らし、逸らした後再びこちらを見てふとを腕に目をやる。 あ、と小さい声を漏らしてから笑いながら言う。 「あ、腕?治ったんだよ!」 「…………」 先程朝食で会ったのに気付かない辺りが流石だ。いや気付いてたかもしれないけど。 承太郎は黙って私の左腕を掴み、曲げてみたり動かしたりする。 「痛くねぇのか?」 「朝起きたら全く痛みがなくて、もう全快だよ!」 「そうか」 短期間での完全治癒に関しては何の疑問も持たずに受け入れた承太郎。 私はもしかしたらツッコミを入れてくれるんじゃないかと期待してたのに。 スタスタと歩いていく承太郎だが、ふと何かに気付いたように呟く。 「静か過ぎねえか?」 「ん?確かに……、あッ!」 私は咄嗟に急いで走り、台所の扉を開ける。 結構大きな音を立てたけどそんな事気にしている場合じゃない。 承太郎も私に続くように走る。 「ほ、ホリィさん……っ」 もっと早くに気付くべきだった。 いつも楽しそうに鼻歌を歌いながら作業をするホリィさんの鼻歌。 その歌声が、いくら広いお屋敷でも台所に近い場所を通っても聞こえてこない事に。 おたま、しゃもじ、鍋などの台所用具やら、まだ洗浄途中の食器が散らかっていた。 食器は割れていないようで怪我の心配はないと胸を撫で下ろすが、それよりもホリィさん自身の心配をする。 駆け寄るとそこにはアヴドゥルさんが先に居た。 上着を背中の部分だけ脱がした姿のホリィさん。 一瞬別の不安が脳裏を過ぎったが、彼はそんな人じゃないと頭を振る。 第一こんなときにそんな気が働いてしまったのなら、私は貞夫さんに代わって抹殺する。 と、無実のアヴドゥルさんは私達に気付き顔を上げる。 「……承太郎………ホリィさんも……」 「スタンドが......発動したんですね」 ホリィさんの額に手を置くとひどい高熱だ。汗が吹き出ていて、呼吸も荒い。 私は急いでタオルを取ってきて、一枚で汗を拭い、もう一枚を氷水で絞ってホリィさんの額に乗せる。 それでも酷い高熱と荒い息遣いで、拭っても拭っても頬も額も体中に汗が浮き出る。 先程まで明るく元気だった彼女がすごくすごく苦しそうで見ていられなかった。 いや、先程のも私達に心配かけさせまいと元気に振舞っていたのだと思う。 気付けなかった自身の不甲斐なさを悔やむ。 ああ床に思い切り殴りかかりたい。でも今はそんな場合じゃない。 そこでアヴドゥルさんがホリィさんを見ながら言う。 「そう……この高熱、『スタンド』が『害』になっているッ! 承太郎さんとジョースターさんにだけDIOの肉体からの影響があり…… ホリィさんには異状がないというので安心しきっていた……」 話しながらもアヴドゥルさんは震えていた。 それは今まで助からない人を見てきたからか分からないが。 アヴドゥルさんは焦りながらも続ける。 「い、いや……安心しようとしていたのだ。ないはずはないのだ。 ジョースター家の血が流れている限り、DIOからの影響があるはずだったのだ。 ただ……スタンドとはその本人の精神力の強さで操るもの。 闘いの本能で行動させるもの!」 「ホリィさんは優しくておっとりしていて……闘いなんて無縁な性格だから……」 私はすっかり温くなってしまったタオルを取り替えるために立ち上がる。 そして先程用意した氷水でタオルを絞り、額に乗せる。 「そうだッ!ホリィさんにはDIOの呪縛に対する抵抗力がないのだ! スタンドを行動させる力がッ!だから『スタンド』がマイナスに働いて『害』になってしまっている!」 「このままだと……ホリィさんはどうなるんですか?」 承太郎はただ黙ってホリィさんを見つめる。 いや、ホリィさんの背中から生えている棘状のスタンドを。 アヴドゥルさんは苦しそうに声を絞り出して言う。 「このままでは……死ぬ。とり殺されてしまうッ!!」 苦しそうに言った後、後ろからの気配に気付き あ、と声を漏らす。 後ろには起きてきた寝巻き姿のジョセフさんが目を見開いて立っていた。 その表情はどこか泣きそうな、苦しそうなそんな表情だ。当然だ。 「……ホ……リィ」 承太郎も最後の言葉には目を見開いて、ジョセフさんを一瞥してから震えながらホリィさんに目をやる。 そんな承太郎をみるないなや、ジョセフさんは強く承太郎の胸倉を掴む。 「わ、わしの……も、最も恐れていたことが……起こりよった。 ついに……ついに娘に『スタンド』が……」 恐怖、そして悲しみから震えるジョセフさん。 承太郎を壁際に押し付け、声までもが振るえる。 彼は大人しく胸倉をつかまれている。それは彼も動揺を隠せていない証拠だ。 「『抵抗力』がないんじゃないかと思っておった。 DIOの呪縛に逆らえる力がないんじゃないかと思っておった……」 ジョセフさんの悲しげな表情は、戸惑いにも見えた。 それでも承太郎は取り乱さないで、ジョセフさんの腕を掴む。 とても強い力で握り締める。 「言え!『対策』を!!」 嗚咽を漏らし、涙を流しながらジョセフさんは ひとつ、と言う。 そしてホリィさんを抱きかかえて。 「DIOを見つけ出すことだ! DIOを殺してこの呪縛を解くのだッ!それしかない!! ……しかし、わしの念写では奴の居所はわからんッ」 悔しそうに写真を取り出す。 その写真は闇に潜む上半身裸のDIOの写真。 DIOはいつも闇に潜んでいて、いつ念写しても背景は闇ばかり。 いろいろな機械やコンピューターで分析したが駄目だった、とアヴドゥルさんが言う。 その話の最中に承太郎を見る。 アヴドゥルさんは私につられて承太郎のほうを見ると、彼は写真を手に取っていた。 「おい。それを早く言え。 ひょっとしたらその闇とやらがどこか……わかるかも知れねえ!」 雄雄しく、きらきらしい雰囲気を漂わせながら、スタンドを出した。 そしてスタンドに写真を見せると紙とペンを渡す。 「……DIOの背後の空間に何かを見つけたな。スケッチさせてみよう。 俺のスタンドは脳の針を正確に抜き、弾丸を掴むほど精密な動きと分析をする……」 スタンドはさらさらと何かを描きはじめる。 あまりにも綺麗なスケッチで、被写体がハエであっても感嘆の息を吐いた。 アヴドゥルさんは驚きの声を上げて叫ぶ。 「ハエだ!空間にハエが飛んでいたのか! まてよ……このハエはッ!知っているぞ!!」 その表情は小さな希望の色が浮かんでいた。 図鑑だろうか。大きな分厚い本を取り出し、ハエの名前を調べる。 『ナイル・ウェウェ・バエ。 エジプト・ナイル河流域にのみに生息し、 特に足にシマ模様があるものはアスワン・ウェウェ・バエ』 などの詳細が書かれている。 アヴドゥルさんは目線を辞典に移したまま言う。 「エジプト!奴はエジプト付近に居るッ! それもアスワン付近と限定されたぞ!!」 希望を見出した私たち。 と、そこに誰かが台所の入り口に近付いてくるのがわかる。 「やはりエジプトか……いつ出発する?僕も同行する」 「花京院。大丈夫なの?」 そこには額に包帯を巻いた花京院が立っていた。 私が近付くと小さく頷いて続ける。 「僕も脳に肉の芽を埋め込まれたのは三ヶ月前! 家族とエジプトナイルを旅行しているときにDIOに出会った。 奴はなぜかエジプトから出たくないらしい」 一同は花京院をじっと見る。 そこで承太郎が不思議そうに言う。 そりゃあ今まで敵だったわけだし、肉の芽の呪縛から解放されたわけだしね。 「同行するだと?何故お前が?」 「そこんところだが......。 何故同行したくなったかは僕にもわからないんだがね……」 笑みを浮かべて言う。 その言葉は昨日承太郎が言ったものだ。 それ気付いた承太郎はばつが悪そうにケッと言い捨てた。 なんだか可愛いなあ、微笑ましいなあと思い頬が緩む。 「照れてるー?」 「照れてねえ!照れる要素ねぇだろ」 うりうりと肘で承太郎をつつくと、心底ウザそうな顔をされた。 ノリノリも嫌だけどそれもそれで嫌だと言うとでこピンされた。痛い。 「お前のお陰で目が覚めた。ただそれだけだ」 花京院は目を伏せて穏やかな口調で言う。 二人のやりとりを見てジョセフさんが目を細めた気がした。 そこにアヴドゥルさんがタロットを片手に取り出す。 「承太郎、占い師の私がお前のスタンドの名前をつけてやろう。 運命のカード“タロット”だ。絵を見ずに無造作に一枚引いて決める」 カードを広げたアヴドゥルさんに承太郎が小さな声で囁く。 何を言っているのかは私には聞こえない。 「アイツのも……あんたがつけたのか」 「ああそうだ。さあ引きたまえ」 広げられたカードの中から承太郎が一枚のカードを引く。 そのカードをアヴドゥルさんに渡すと、声を上げる。 「星のカード!名付けよう!君のスタンドは『星の白金』!」 「スタプラー!」 「は?」 ついスタプラに名前が嬉しくて、飛び上がってしまった。 そのため承太郎から心底冷ややかな視線を浴びせられてしまったのは言うまででもない。 ホリィさんが倒れてから数日後、今の季節は冬。 木々は枯葉は全て落ちてしまい丸裸で、雪化粧を待つばかりの状態だ。 そして鉛色に近い、灰色の空は余計に寒々しさを演出していた。 そんなひんやりとした空気は私の全身を包み、時折くしゃみを連発させる。 スタンドの発現により意識を手放すほどの高熱に見舞われたホリィさんも 今日は何事もなかったかのように笑顔を浮かべている。 それはジョースター家を常にバックアップしてくれている スピードワゴン財団の方々の看護のおかげなのかは分からない。 現在アヴドゥルさんと花京院は縁側から外に出ているが、ホリィさんの寝室にはジョセフさん、承太郎、私が居る。 「ほんとあたしったらどうしちゃったのかしら? 急に熱が出て気を失うなんて……でも解熱剤でだいぶ落ち着いたわ」 布団を折り返して、上半身を起こすホリィさん。 その口調はいつもと変わらず軽やかで、明るい。 しかし気付いていないものの、その背中からは棘がちらりと出てきている。 「びっくりしたぞホリィ。どら、起きたら歯を磨かなくてはな……」 ジョセフさんが歯ブラシと歯磨き粉を取り出して、ホリィさんの歯磨きをしてあげる。 こんな状況じゃなかったら小さい頃の二人を想像して、微笑ましいと思えるのに。 ジョセフさんが甲斐甲斐しいくらいに、お世話する。 歯を磨いてあげたり、顔を拭き、髪を梳かし、爪の手入れをし、林檎を食べさせ上げたりなど。 それはジョセフさん本人たっての希望だったので、私はただ承太郎の傍に腰を下ろしていた。 ただ座っているのも落ち着かないから、スタンドを出して膝の上に乗せて、ひたすら撫でる。 「あんたどーにか出来ないの?」 『僕は消滅しか出来ないって言ってるでしょ。どーにもこーにも出来ません』 「熱を消すとかさ……」 必死な私をよそに深紅の杖は、呆れたように溜息を吐く。 『病気の熱ならともかくスタンドが原因なんだよ? 下手なことをしてこれ以上彼女の身体が弱まったら大変だ』 「……低能」 私が小さな声で言うと兎は顎目がけて身体を跳ね上げた。 そして後足で蹴ってそのまま消えた。ちくしょー痛いぜ。 一息ついてからジョセフさんを見たら、ホリィさんの足を拭いた後にからかわれたらしい。 ホリィさんは下着をくるくる回し、ジョセフさんはたじろいでいた。 「さあて、承太郎、ちゃん。夕飯は何にする?」 「動くなッ!静かに寝てろ!」 布団から起き上がろうとするホリィさんだが、承太郎の声に驚き、動きが止まる。 承太郎は冷や汗をかきながらも冷静を装う。 「ね、熱が下がるまで何もするなって事だ……。 黙って早く治しゃあいいんだ」 学帽を直しながら喋るが、言葉がうまく出てこない。 どもりながら、口調を和らげて言うとホリィさんは布団に潜りながら言う。 「ふふ……そうね。病気になるとみんなスゴク優しいんだもん。 たまにはカゼもいいかもね」 そう言って布団に横になると一瞬にして意識を失ってしまった。 ジョセフさんが慌てて額に手を当てると、酷い熱だとホリィさんを見る。 良く見ればホリィさんの顔も真っ赤だ。平然を装っていたけど相当無理をしていたんだ。 「気丈に明るく振舞っているが、なんという高熱……。今の態度で分かった。 何も語らないが、娘は自分の背中の『スタンド』のことに気付いている……。 逆にわしらに自分の『スタンド』の事を隠そうとしていた……」 自分達に心配かけさせまいと、そんな優しい子だという。 悲しそうに、心配そうにホリィさんをみるジョセフさん。 さらにジョセフさんは自分にも言い聞かせるように、ホリィさんの手を握りながら言った。 「安心するんだ。心配することは何もない……必ず元気にしてやる」 「……約束します。必ずみんなでホリィさんの笑顔を見るために」 その手に私も手を重ねてホリィさんの額にキスをする。 これは誓いのキス。私が全員を生きてここに連れて帰ってくるという。 そこで縁側を挟んで庭に居た花京院は、アヴドゥルさんと何かを話していた。 まあ聞かずとも知れたホリィさんLOVE宣言だと思うんだけどね。 人妻に手を出してはいけません。あ、ちょい違う? 「僕も恋をするとしたらあんな気持ちの女性がいいと思います。 護ってあげたいと思う……元気なあたたかな笑顔がみたいと思う」 「うむ。いよいよ出発のようだな……」 聞こえてしまった。 小さな衝撃を受けつつも、ジョセフさんと承太郎は立ち上がる。 そしてアヴドゥルさんの言葉に一同は頷き、声をあげる。 「行くぞ!」 こうして私達のエジプトツアーが始まるのでした。 ……と思ったのだけど。 ジョセフさんが私の両肩に手を置いて真剣な眼差しで言う。 一瞬何かとたじろいだけど私も真剣にみつめ返す。 「……には危険過ぎる。家で待ってなさい」 言われるのではないか、と前々から危惧していたことだ。 どうみても一般人で非力そうな人間だ。戦力外と言うか無駄死にするのがオチみたいな。 本当は血みどろな戦いなんてごめんだ。私はただの女子高生で、無力なのだから。 だけど今はスタンドの力があるから無力じゃない。だから私にはこの能力を使いこなして、皆を護りたいんだ。 戦力外の私が護るなんて言葉を使うのはおこがましいだろうけど。 「嫌です!たとえ置いて行かれたって、密航やハイジャックしてでも何としてでも着いていきます!」 「……死ぬかもしれん危険な闘いが待っているんじゃ」 「死にません、戦力外なら追い返して構いませんから……っ」 「仮にもお前はさんの家の子で女の子なんだぞ」 「ジョセフさんッ!」 置いていかれたらこの世界に来た意味がなくなる。 意図してこの世界に来たわけじゃないにしろだ。 頑として引き下がらないが、困惑の眼差しを浮かべるジョセフさん。 アヴドゥルさんに助け舟を求めているが、アヴドゥルさんは肩を竦めるだけだった。 「死にません、絶対に」 強い眼差しでジョセフさんを見つめる。 私もここで引き下がるわけにはいかないからだ。 その意思も伝わるように一呼吸置いてから再び言う。 「私は絶対に死にません。自分の身だってきちんと護れます」 「だ、だがなあ………」 「本人が大丈夫だって言ってんだ。それにソイツの言うとおり足手まといなら無理やり送り返せばいい。 それにこいつのスタンドの能力は戦力になると思うぜ」 承太郎がジョセフさん側ではなく私に助け舟を出してくれた。 そのとおりだ。使えないなら日本に送り返して貰って構わない。 だからどうかそれまで旅の仲間として行動させて欲しい。 「……ジョセフさん……」 「うーむ。仕方ないのう……ただしわしの言うことを聞くこと。 危険と判断したらすぐさま大人しく引き返すこと。それが条件だ。いいな?」 腑に落ちない、といわんばかりの表情だが許してもらえたらしい。 一緒に旅が出来る。そりゃあ闘いはすごく怖いけど......でも、このまま見てみぬフリはできない。 ホリィさんにも全員無事で帰ってくるって約束したし。 だから私は笑顔で条件を呑む。 「……はいっ!」 返事と同時にジョセフさんに抱きついた。 ジョセフさんは驚いたが、きちんと受け止めてポンポンと頭を撫でてくれた。 厚い胸板があって、若かりし頃に鍛えたという筋肉は今もご健在だ。 しばらく抱きついていると ホリィの若い頃とそっくりだなあと笑った。 何ともいえなくて照れてしまいただ笑うしかなかった。 そして私達の旅が始まった。 BACK<<★>>NEXT 2009/08/11 |