視界の端で白い兎がに小突かれて 痛いと声をあげた。 その声は女みたいに透き通った声だ。本体とスタンドは同性なのか。 俺にはスタンドについて知らないことがまだまだ多いから、なんとも言えない。 だが、のスタンドは他と違う。 アイツの言うとおりに動くわけでなく、自我を持っているようだ。 なんて様子見を横目でするが、正直余裕があるわけではない。 俺は隙を見て女医の口から花京院のスタンドを引っ張りだした。 引っ張り出すと、そのスタンどは緑色でスジがある。 まるで光ったメロンみたいだと表現した。 「引きずり出したことを……後悔することになるぞ、ジョジョ」 花京院は窓の桟に腰掛け、操り人形を離さないまま呻くように言う。 俺のスタンドの指の痕がくっきりと浮かび上がる。 相当キツいはずだがまだどこか余裕があるのか……? 「ちょいと締め付けさせてもらうぜ。 気を失ったところでお前を俺のじじいの所へ連れて行く……。 お前にとても会いたいだろうよ。俺もDIOと言う男の事がすごく興味あるしな……」 ここまで言うと、相手の異変に気付く。 花京院のスタンドの手から緑色の液体が流れ落ちている。 それも結構な量だ。 俺は妙な真似をするな、と花京院を制したが、止まらずに叫ぶ。 「くらえ。我がスタンド『法皇の緑』の……エメラルドスプラッシュ!!」 宝石のような形の弾がいくつも繰り出される。 俺のスタンドは左胸にソイツをモロに食らい、本体である俺は校舎側の扉にぶつかった。 そしてスタンドが受けた傷を俺も受け、口から血が零れ落ちる。 奴のスタンドは本体の傍に戻り、花京院は得意げに言う。 勝利を掴んで勝ち誇ったかのようなそんな表情だ。 「我がスタンド『法皇の緑』の体液に見えたのは、破壊のエネルギーの像! 貴様のスタンドの胸を貫いた。 よって貴様自身の内臓はズタボロだ……」 そして、と続ける花京院。 その視線の先には虚ろな表情の女医が居た。 女医は小さな声を漏らしながら、口やら耳やらから血を吐いて転げ崩れる。 「な、なにィー……」 俺は歯を食いしばり、花京院を睨みつける。 奴のスタンドはズルズルと足元を這うように動く。 09 兎こと深紅の杖と話していると、何かが思いっきり壁にぶつかる音がした。 驚いてぶつかった方向を見ると承太郎が壁にぶつかり、血を流していたのだ。 攻撃を仕掛けた花京院はさらに言葉を続ける。 「言ったはずだ。 僕のスタンドに攻撃を仕掛けることは、その女医を傷付けることだと。 貴様のスタンドより遠くいけるが、広い所は嫌いでね。 必ず何かの中に潜みたがるんだ……」 私なんかには目を向けず、傷ついた承太郎だけを見る。 花京院の足下をズルズルと這うハイエロファントグリーン。 触手状にほつれる人型スタンドっていう利点をもつスタンドなんだけど……うん。 正直その動きは蛇か何かに見えて、見ていてあまり気持ちの良いものではないと思った。 花京院は更に承太郎を責めるような口調でつらつらと語る。 「引きずり出すと怒ってしまう。 だから喉内部辺りを出るときに傷付けてやったんだ。 これはジョジョ…お前のせいだ。お前がやったんだ。 最初から大人しく殺されていれば、女医は無傷で済んだものを……」 私は兎を、深紅の杖を見る。 彼女(性別は分からないが、声色からそう呼ぶ)は大人しく座っているだけで、何かするわけでない。 だが私はこの状況で何か役に立てることはないか、と思考を働かせる。 その結果として承太郎に駆け寄り、左は使い物にならないので右肩を貸して起こす。 承太郎の方が明らかに背が高いので、最終的には自分で起き上がるという形になるけど。 そこで近付いてきた私に向かって怪訝な顔で言う。 「ば……馬鹿野郎ッ、……お前は離れてろッ!」 「でも、私だって……」 役に立ちたい、闘いたい......そう喉まで出かかった言葉を飲み込む。 だって物語の登場人物ではない私に用意されているシナリオなどないのだから。 それに私が出てこなくたって、ここで承太郎は負けたりはしない。 つまり、出る幕ではない。それは十分に分かっているのだけど。 私の支えを振り払いながら、承太郎が追い打ちをかける。 「足手まといだッ!下がってろ!」 「……!!」 私は目を大きく開いて承太郎を見る。 本心で言ったのか、怪我している私の身を案じて言ってくれたのかは分からない。 寧ろどちらの意味も含めて言ったのかもしれない。 事実今の私は闘えないどころか、自分の身すら護れないかもしれないのだから。 どうしようもなくなってすぐに承太郎から目を逸らす。 その際に独り言のように呟き、大人しく後ろに下がる。 「......怪我が治ったら役に立ってみせるから」 「………」 承太郎が何を考えているのかは分からない。 普段からあまり変化のない表情のためか、学帽の所為かは定かではないが、表情が読み取れない。 しかし承太郎は何も言わずに、私を背中に護るように構える。 ただの思い過ごしか、考えすぎかもしれないけどそう思えた。 その姿を見て花京院は哀れむような口調で言う。 「まだ立ち上がるのか……。 だが悲しいかなその行動を例えるなら、ボクサーの前のサンドバック。 ただ打たれるためだけに立ち上がったのだ。それも彼女の支えも無意味のな」 そう言って私を一瞥する。 私は舌を出してべーっ、と反応するが、花京院はそれ以降承太郎と向き合う。 つまり私の事をスルーした。酷いなあ。 「……この空条承太郎は、いわゆる不良のレッテルを貼られている」 まだおぼつかない足取りの承太郎がぽつりと呟く。 後ろにいても分かるくらいに血がぽたぽたと滴るのが見える。 「ケンカの相手を必要以上にブチのめし、未だに病院から出てこれねぇ奴もいる。 威張るだけで能なしなんで気合を入れてやった教師は、もう二度と学校へ来ねぇ」 その口調は徐々に強みを増してきて、両手の拳を握る。 花京院は黙って承太郎の言葉を聞いている。 「だがこんな俺にも吐き気のする『悪』はわかる! 『悪』とはてめー自身のためだけに弱者を利用し、踏みつける奴のことだ!! ましてや女をッ!貴様がやったのはそれだ! おめーのスタンドは被害者にも法律にも見えねえし、わからねぇ……」 だから、と言い人差し指を立てて横に引く。 さっきの一言でふてくされていた私だったが名シーンによって一気に感情が高まる。 「俺が裁く!」 「それは違うな。 『悪』とは敗者のこと……『正義』とは勝者のこと。 生き残った者のことだ、過程は問題じゃない。負けた奴が『悪』なのだ。 くらえ!エメラルドスプラッシュ!」 言い終わると同時に花京院はエメラルドスプラッシュを放った。 緑色の宝石状のエネルギーが分散して飛んでくる。 承太郎は、敗者が悪?と小さく言うと不敵な笑みを浮かべ、スタンドを出した。 「それじゃあやっぱりィ...てめーのことじゃねーかッ!」 そう言うと同時にスタプラがエメラルドスプラッシュを弾き飛した。 私にも当たらないように弾いてくれた。 「バカな……エメラルドスプラッシュを弾き飛ばしたッ!」 驚く花京院に隙を与えず、スタプラはそのままハイエロファントグリーンの首を掴む。 そして強く殴りつけ、オラオララッシュをかます。 「裁くのは俺の『スタンド』だッ!!」 「な、んてパワーのスタンドだ……」 体中から血を噴出して花京院が倒れる。 私は承太郎の後ろから駆け出し、倒れる花京院を抱き起こす。 承太郎は不思議そうな顔でこちらを見るが、私から花京院を受け取り肩に担ぐ。 「騒ぎが大きくなったから今日はフケるぜ。 お前はどうする?」 「私も今日は帰るよ、この状況は説明出来ないし。 それより花京院からDIOについて聞かなきゃだよ」 「……ああ」 承太郎は自分の鞄を拾い上げ、歩き出しながら言う。 私は肩をすくめて苦笑する。 そして私も自分の鞄を拾い上げて後を追う。 『』 ふいに呼ばれ振り返ると白い兎は私を見ている。 なあに、と言うと勢い良く跳んで顔面を蹴られた。 器用なことに後ろ足でだ。痛い。 「いたぁ……何すんの!」 『小さいことでクヨクヨしない! 、君が僕を使いこなすのも君次第なんだからね!』 「?」 『スタンドの能力の源は精神力なんだよ。 お馬鹿なにはここまでヒントをだしてあげるから、考えて。 人間は考える生き物なんでしょ?』 ふん、と鼻を鳴らすカーディナルワンド。 兎のくせに後ろ足で立って前足を腰に当てる。 なんか不気味だ。だけど。 「……言ってることは遠まわしでわかんないなあ。 でも元気付けてくれた?ありがとう」 『………ちゃんと考えて。そんで早く僕を使いこなしてよ』 ぷいっとそっぽ向く仕草が可愛い。 よしよしと頭を撫でてやると承太郎が帰るなら早く来い、といったのが聞こえた。 私はその声に返事をし、駆けていった。 BACK<<★>>NEXT 2009/08/02 |