俺はあの時ゴロツキ共は自分の力で倒すつもりだった。 だが俺に取り憑いている『悪霊』は勝手に動きゴロツキ共に攻撃をしやがった。 悪霊が間違ってあいつに攻撃でもしやがったら、と思っただけでも肝を冷やしたもんだ。 今の俺じゃあ制御できないが、あいつに会ってから俺の悪霊も大人しくなった。 そんな事があってか、あいつという人間に対し少なからず好感を持っている。 などと俺が考えている間にも悪霊は牢屋の中に次々と物を運んできやがる。 ラジオや雑誌、オカルトの本など多々あるがいつ、どうやって持ってくるのかは不明だ。 そんな時遠くで他の囚人達がざわめいているのが聞こえた。 おふくろが着たのか、警官が来たのかは分からない。 暫くすると片手にギプスを嵌めた女が歩いてきた。あいつだ。 「じょーたろ!」 あいつが気付く前に俺は読みかけていた本に再び目を移す。 きっとあいつはしょーもないくらいにへらへら笑ってるんだろーな。 このも俺に好感を持っている(恋愛だのそういうのは抜きにしてだ) 俺が返事もせずに本を読んでいると同じ部屋の囚人達が、鉄格子に駆け寄る。 「コイツの彼女かァ!?早くコイツを連れてってくれよォ!!」 必死な哀願の視線に気付いていてか気付かないのか、は気色悪ィ顔で 彼女だなんてと頬を染め否定していた。 そこは普通に否定しろ、と言ってやりたかったが面倒なので抑えた。 このまま放って置くとが言いたい放題になり、あることないこと話しそうな気がした。 だから俺は仕方なくに声を掛けてやることにした。 それからすぐにおふくろが来ることになるが、今はまだ知らない。 06 承太郎の牢屋の扉が開いた。 そして一人の初老の男性が近付く。 「承太郎出るんじゃ。わしと帰るぞ」 「消えな。お呼びじゃねぇぜ」 ハットをかぶった体躯の良い初老の男性が承太郎と向き合う。 その顔立ちは日本とは異なり、ホリィさんと少し似ていることから彼女の父親だと思う。 つまりはジョセフ・ジョースターさんだ。 承太郎は鉄格子で行けるギリギリまで詰め寄る。 二人の顔立ちはどことなく似ていて、独特の雰囲気を醸し出している。 向かい合う二人の傍にはホリィさんと私ともう一人居て、少し離れた所には警官がいる。 警官は心配そうに初老の男性を見守るのみだ。 承太郎がジョセフさんの義手の小指を掴む。 微かにだが承太郎の手が二重に見える。スタンドだ。 「見えたか?気付いたか?これが俺の悪霊だ」 と言い掴んだ義手の小指を手放す。 そして自ら牢屋の扉を閉めて私達に背を向ける。 ジョセフさんは眉間にシワを寄せて、暫し固まった後に指を鳴らす。 「アヴドゥル、君の出番だ……」 呼ばれて進み出てきたのは、特徴的なくるくるとした髪型の男性だった。 彼は首から大きめのアクセサリーを下げ、マントに身を包んでいる。 色黒で西洋の顔立ちの真面目そうな大人だ。 「三年前に知り合ったエジプトの友人アヴドゥルだ。 孫の承太郎をこの牢屋から追い出せ」 そこまで言うとベッドに腰を下ろしながら 「追い出せと言われて素直にブ男に追い出されてやる俺じゃない。 さらに意地を張って何が何でも出たくなくなった」 と承太郎は言った。意地っ張りだ。 初対面の人をブ男呼ばわりする根性に敬意を表しながらも、私はホリィさんを一瞥した。 頑なで天邪鬼な承太郎をひたすら心配そうな顔で見るホリィさん。 ホリィさんにこんなに心配掛けて…後で説教だな。うん。 私も承太郎を牢屋から出す手伝いをしようと思う……が、スタンドを出せないので諦めた。 アヴドゥルさんは手荒くなるといって『魔術師の赤 』を出した。 マジシャンズレッドは火を吐き、承太郎の手足をする。 あまりの熱さに承太郎の顔に苦痛の色が浮かぶ。 腕には火が貫通しているように見えるあたり、相当な痛みと熱さだと思う。 その様子を見てホリィさんが 承太郎に何するの!と声を上げる。 しかしジョセフさんは承太郎が出した『悪霊』の姿をみて思いのほか驚愕している。 「おお……出しおったよ。予想以上の承太郎の力!」 この世界に来て見るのは二度目になる承太郎の悪霊の正体。 どこかその眼差しが承太郎に似ているのは精神力の根源だからだろうか。 警察官がこの留置所が熱い、と汗を拭う。 しかし私の周りは殆ど熱くない。どうやらすぐ隣に居るホリィさんも熱くないようだ。 「……?」 本来ならマジシャンズレッドの能力により汗だくになるはずが、思いのほか涼しい。 周りをみると私の足元にはあの昨日の兎が居て、鼻をヒクヒクさせながら闘いを見ていた。 もしかしてと思い、少しずつ動いて兎から離れて行くと熱くなる。 どうやらこの兎が熱を消してくれているようだ。 この兎はもの消すことができる能力を持っているらしい。 一方承太郎は彼の『悪霊』を出してマジシャンズレッドの首を掴む。 それと同時にアヴドゥルさんの首にも誰かに首を掴まれているかのような痕が浮かぶ。 「ジョースターさん。あなたはお孫さんを牢屋から出せと言われました。 手加減しようと思いましたが……この首を見てください。予想以上に骨が折れそうだ」 アヴドゥルさんの額や頬には苦しさのための脂汗がにじみ出ている。 苦しそうに どーしても出せというんなら荒っぽくなる、と言う。 そこにジョセフさんは やってみろと頷く。 アヴドゥルさんは力を込めて叫ぶ。 「ムウン!赤い荒縄!!」 マジシャンズレッドは縄のような炎を出し、承太郎の身体や首を締め付ける。 その熱で牢屋だけでなくこの建物内が物凄い熱気に包まれるのを肌で感じた。 「……い、息が……ッ」 それは呼吸さえも困難にさせていると思う。 承太郎は苦しさに顔を歪める。 「パパ!一体これは…っ!」 「ジョセフさん……」 苦しそうな承太郎の表情に耐えかねて、私達は口を挟んでしまう。 私に至っては話の流れを知っているにも関わらずだ。 実際にこの空気に包まれてみると承太郎が本当に心配で仕方が無くなる。 しかしジョセフさんは いい娘だから黙っておいでねとなだめるのみだ。 ちなみに私には おじいちゃんと呼んでネと言う余裕まであるみたい。余裕綽々だ。 「悪霊が引っ込んでいく……。 熱で呼吸が苦しくなれば、お前の悪霊は弱まっていく。 正体を言おう!それは『悪霊』であって『悪霊』ではないものじゃ!」 そう説明している間にも承太郎の悪霊はどんどん引っ込んでいく。 姿が薄れかかっているようにも見える。 さらにジョセフさんは続ける。 「悪霊と思っていたのはお前の生命エネルギーが作り出す、パワーある像なのじゃ! 傍に現れ立つと言うところから、その像を名付けて『幽波紋』!」 壁側にいた承太郎はいつの間にか檻の前にいて、炎に灼かれている。 今度はアヴドゥルさんが余裕を見せる。 「イソップの話にある…寒風では旅人は衣を纏うだけだが、熱さは音を上げさせる。 檻を出たくなったか」 「い……いい加減にしろ……俺が出ねえのは他人に知らず知らずのうちに、害を加えるからだ。 同じ悪霊持ちとは親しみがわくが、このまま続けるとテメェ……死ぬぞ」 そういいながら一瞬だが私を一瞥した気がした。 最後の言葉に力を込めた承太郎は牢屋に付いてある便器を破壊する。 すると壊れた水道管からは水がとめどなく吹き出す。 その勢いでマジシャンズレッドの炎は消され、承太郎のスタンドは鉄格子を掴み左右に広げる。 警官やスタンド使いではない人が見たら、ひとりでに鉄格子が曲がっているようにしか見えない。 だから警官や囚人は各々悲鳴を上げ、さらに遠ざかる。 承太郎のスタンドは折れた鉄格子を拾うとアヴドゥルさん目掛けて振りかぶる。 しかしアヴドゥルさんはスタンドを解除し、背中を向ける。 そして怒号する承太郎のスタンドをよそにジョセフさんの隣に腰掛ける。 「ジョースターさん。見ての通り彼を牢屋から出しましたが……」 ジョセフさんに代わり承太郎がスタンドを解除し足元を見る。 見た後溜息と共にアヴドゥルさんを見る。目つきの所為か睨んでいるようにも見える。 「してやられたと言うわけか?」 「それでもない。……わたしはマジで病院送りにするつもりでいた。 予想外のパワーだった」 闘いの後の男の友情とも違うが、互いに称賛の意を表してだろう。 一気に雰囲気が落ち着いたようだった。 承太郎が 万が一鉄の棒を投げていたら、と尋ねる。 だがアヴドゥルさんは 自分のスタンドが溶かすからわけないと至って冷静に言った。 そこでジョセフさんが承太郎に親指を立て、提案する。 「アヴドゥルはお前と同じ能力を持つ者。 ……もう牢屋内で悪霊の研究をすることもなかろう」 「わー承太郎、ここを出るのねっ」 「わーい!」 私とホリィさんが承太郎の片腕ずつに引っ付く。 ホリィさんは本当に安心して満面の笑顔だ。良かった。 「うっとーしいんだよ、このアマ!、お前もくっつくんじゃねぇ」 承太郎は引き剥がしはしないものの面倒くさそうに言う。 私とホリィさんは口だけの はーい、と間延びをした返事をする。 ジョセフさんは母親に向かってアマとはなんだ、と怒ったが承太郎は知らん振りする。 そこで承太郎は一つだけ疑問を口にする。 なぜ『幽波紋』を知っていたのか。 するとジョセフさんとアヴドゥルさんは目を見合わせる。 そして 説明をするためにニューヨークから来たのだと、ジョースター家に関係ある話だと言い数枚の写真を見せる。 船の写真、豪奢な宝石のちりばめられた棺桶の写真など。 「今から四年前。その鉄の箱がアフリカの大西洋から引き上げられた。 箱はわしが回収してある…その箱は棺桶じゃ。丁度百年前のな」 ジョセフさんは一呼吸置き、再び話してくれる。 「棺桶はお前の五代前の祖父。 つまりこのわしのお祖父さん、ジョナサン・ジョースターが死亡した客船に積んであったものという事は調べがついておる。」 そうだ。私はこの奇妙な物語を最初に紡いだ二人を思い浮かべる。 ジョナサン・ジョースターとディオ・ブランドーの戦いの物語“ファントムブラッド” ジョセフさんは尚も続ける。 「中身は発見された時空っぽだった。だがわしには中に何が入っていたのかがわかる。 わしとアヴドゥルはそいつの行方を追っている!」 「『そいつ』?ちょい待ちな……。 そいつとはまるで人間のような言い方だが、百年間海底にあった中身をそいつと呼ぶとはどういうことだ?」 語弊があるわけではない。 そう言うかのように強い口調でジョセフさんが続ける。 「そいつは邪悪の化身、名はディオ!! そいつは百年の眠りから目覚めた男。 我々はその男と闘わねばならない宿命にあるッ!」 ジョースターの血が流れている限り、逆らえぬ運命なのだと言う。 「こんな汚い場所じゃなんじゃ。 ここを出て広い所で話そう、いいな」 ジョセフさんはコツコツと音をたてながら先に歩いていく。 その後にアヴドゥルさん、ホリィさんと続く。 私は承太郎の腕を引きながら言う。 「ホリィさんも私も淋しかったんだからね! あとで落とし前つけてよねっ」 「……お前もスタンド持ってるか?」 質問(じゃないけど)を質問で返された!吉良に怒られるぞ。 というか私の話を聞いてない承太郎であった。 とは言え承太郎に尋ねられたのなら答えようと、考える。 「そうみたい。でもまだ私の意志じゃ出せない」 分かってるのは兎を模したしたスタンドだって事ぐらいだ。 そう説明すると承太郎はそうか、と溜息混じりに言う。 溜息を吐かれたのはショックだったが承太郎が歩き出したので、とにかく置いてかれないように小走りでついていく。 こうして私達は留置場を後にした。 BACK<<★>>NEXT 2009/07/18 |