刑務所を出た後、喫茶店で刑務所でした話の続きを聞かせてもらった。
ジョセフさんにも『隠者の紫(ハーミットパープル)』という棘型のスタンドが発現していたこと。
ジョースターの血筋の者なら必ず首の根元に星の痣があること。
ディオがジョセフさんの祖父であるジョナサンの身体を乗っ取っていたこと。



その話が済んだ後にジョセフさんが私を見た。
少し曇っているその表情に 私が話し合いに加わるべきじゃなかったのかな、と悔やんだ。


……だったか。ここにきて間もないのにこんな話に巻き込んでしまってすまんのう」
「あ、いえ。とんでもないですっ」


ジョセフさんは申し訳なさそうに小さく頭を下げる。
私は慌てて顔と両手を思いっきり左右に振って否定する。
つまり私の心配は杞憂だったみたいだ。


それにこの話の流れに沿っているからそれで満足だし。



気にしないで下さい、と言うとジョセフさんは申し訳なさそうな表情の後に笑った。
若い頃のヤンチャなあの笑顔を思い出させてくれるいい笑顔だ。

と、余韻というか何かに浸っているとジョセフさんは遠慮がちに尋ねてきた。
心なしか目線が泳いでいるのが可愛らしいッ



「そういえばもしかしお前さんもその……見えてるのか?
 小さい白いなにかがお前さんを護っているのを見たが…」

「俺も牢屋に入る前にも一度見たぜ」



そこに偉そうな態度で座っている承太郎も、口を挟む。
二人に質問されたからにはきちんと答えたいんだけど、今はその兎が姿を現さないから見せることが出来ない。
見せられないので説明しようにも知っていることが少なすぎて、話にならない。

かといって言わないわけにもいかないから、口を開く。



「み、見えてます。白いやつの正体は良く分からないんですが……」
「あ!さっき私達を護ってくれた兎ちゃんね?」
「うん。ホリィさんの事も護ってくれて良かったー」


ホリィさんは 可愛かったわぁーとにこにこ笑みを浮かべる。
確かに兎は可愛い。だけどあの目の色はどうしても怖くて駄目だ。
猩々緋色......鮮やかな赤がなんだか怖い。


ジョセフさんはそうか……、とだけ言うと腰を上げ、ホリィさんの肩を抱く。


「ホリィ。わしらは暫く日本に滞在する。お前の家にやっかいになるぞ」

久々のホリィの手料理が楽しみだ、と笑いながら店を出て行く。
それにアヴドゥルさんやホリィさん、承太郎も溜息を吐きながらついて行った。













07



















こうしてジョセフさんとアヴドゥルさんが空条家に来たわけだけど、夕飯が大変だった。
私はまだ左腕が使えないから、片手で出来るお手伝い程度の事しか出来ないわけで。

でも人数が増えた分だけご飯のの準備をしなければならない。
普段からパーティを行う家庭なら朝飯前だが、空条家はどうなのだろうか。
取りあえず普段二、三人分しか作らないから大変だと思い、出来る限りのお手伝いをした。


「ホリィさん、出来たおかず配膳するよ!」
「唐揚げできたわ!お願いね」
「了解っ」


私は敬礼ポーズをし、出来上がった唐揚げをテーブルへ運ぶ。
運ぶともうジョセフさんやアヴドゥルさんが椅子に腰掛けて待っていた。
なにやら楽しそうに会話に花を咲かせているようだ。


ホリィさんも手馴れた手つきで和洋両方のおかずを作っていく。
しかもたまにジョセフさんから話を振られても、ゆったりと受け答えをするくらい余裕なようだ。


安心しそんな感じで次々とテーブルに運んでいくと、一人居ないことに気付く。


「……あれ、承太郎は?」
「承太郎?まだ部屋に居るんじゃろう」
「そろそろ支度も終わるから呼んできてくれないか?」

次に箸や皿を並べながら二人に問いかける。
二人は紅茶を飲みながらゆったりとした口調で言った。
アヴドゥルさんと話すのって何か新鮮だ……!

そんな小さな衝撃を受けつつも、私は言われるがままに呼びに行くことにした。














廊下を歩き部屋の前まで着くとすっと右手を上げる。
そしてノックをしようとした瞬間。突然視界が暗くなり、顔面に痛みが。


「っ、うぅ……」
「!……」


見計らったかと思えるくらいの丁度良いタイミングで扉が開いた。
よく見ると承太郎の部屋は和室じゃないらしく、襖ではなく取っ手付きの扉だった。
扉を開けた本人は、ぶつかった瞬間こそ驚いたようだったがそれ以降は興味がなさそうにただ私をみる。


「痛い」


多分、きっと今の私は涙目だ。恨みを込めて睨みつけてやった。
しかし承太郎はそんな視線にお構いなしだ。


「……黙ってつっ立ってるてめぇが悪い」


確かにそうだけど、と反論するが承太郎は私を押し退けて歩き出す。
私はその後を黙ってついて行く。

数メートル歩いた所で何を思ったのか立ち止まる。
そのため今度は承太郎という壁に激突してしまった。
筋肉で硬いからぶつかると痛い。


「…………もしかしてわざわざ呼びに来たのか?」


立ち止まってからもすごく間が開いている気がした。
何か考えたてその結論に至るまでの時間なのかな。


「……それ以外何しに来るっていうのよ」


謝られないから少し腹の虫の居所が悪い。
結構な勢いでぶつかったからきっと鼻が赤くなっているだろう。
承太郎は再び歩き出して小さな声で、悪いと言った。


「………」

承太郎が謝ることにも驚いたが、こんな事で謝ってもらえるとは思いもしなかった。
ああすごく嬉しくなってきた。
頬の筋肉が緩んでしまい、しまりの無い顔してんだろーなーなんて思いながら腕にしがみ付く。


「何二ヤついてやがる」
「……承太郎が優しいからーっ」


つい調子に乗ってしがみ付いたら0.1秒の速さで引き剥がされた。さすがだ。
だけど懲りずにもう一回、今度は背中にしがみ付くと面倒になったのか抵抗しない。
まるでト○ロに乗っている五月の姉妹の気分だ。
身長195センチは伊達じゃないな、と思う。


みんなが居る部屋に着いた頃にはホリィさんも腰を下ろして、募る話をジョセフさんやアヴドゥルさんとしていた。
私達を見るなり立ち上がろうとしたけど、私はそれを制止した。
そしてリアルト○ロこと承太郎から降りてご飯を二人分よそって運んだ。













夕食の後。
承太郎はさっさと部屋に引っ込んでしまったし、ジョセフさんはお風呂に入っている。
アヴドゥルさんはまだダイニングテーブルに腰掛け、日本茶を堪能していた。

食器を片付けるお手伝いをしようとしたが、ホリィさんは片づけをしていたので、
私は思い切ってアヴドゥルさんにお願いをしてみることにした。



「アヴドゥルさん、私のスタンドに名前をつけて下さいっ」
「ん?君の……?」


湯飲みをテーブルに置き、不思議そうな顔をして私をみる。
会って間もない上、まだまともに見たことのないスタンドの名前を頼んでいるのだから無理はない。


「アヴドゥルさんは占い師だって聞いたので……お願いしますっ」


深々と頭を下げるとアヴドゥルさんは笑みを浮かべる。
そして何も聞かず、ただカードを取り出して切り始める。


「そうか。……じゃあこのカードの中から一枚引いて……」

「あ、私のは大アルカナのカード(
※1)じゃなくて、小アルカナのカードからお願いします」
※1:タロットの一組78枚のうち、22枚を構成する、寓意画が描かれたカード
   小アルカナはそれ以外の聖杯・こん棒・剣・金貨で構成されるカード





大アルカナだときっと誰かのカードと被ってしまうから。
それもそれで良いと思うけど、取りあえず提案してみた。
だがアヴドゥルさんはまた不思議そうな顔をして言う。


「どうして大アルカナのカードだと?」
「あ、いえ……」


どうしよう、と困る。
物語を知ってるからです、なんて本当の事を言っても信じてもらえないだろう。
しかしアヴドゥルさんは何かを察したようにカードを取り替え、切った。
そして枚数が多いためテーブルの上にカードを並べはじめる。



と呼んでいいのかな?」


並べながら優しい表情で言う。
まだ少し緊張しているが、スカートの裾を強く握り返事をする。
次に口にされる言葉に耳を傾ける。

「はい」
、カードを一枚選ぶんだ。
 その無造作に選んだカードが君の運命やスタンドの能力の暗示になる」

「はい。……え?」


何も聞かないんですか、と戸惑いながら震えた声色で尋ねる。
アヴドゥルさんは私の頭に手を置いて笑う。


「占い師はあくまで占いをする人間だ。
 客人のプライベートまでは必要としない。そうだろう?」

「あ、ありがとうございます。では……これを」


不覚にもカッコいいと思ってしまった。不覚は余計か。
私はテーブルに置かれたカードの中から無造作に引いたカードを表に反す。
カードに描かれていたのは一本の棒の絵。


「これは何のカードですか?」
「エースのワンドだ。状況の始まりと芽生えを意味している。
 名付けよう、君のスタンドは『深紅の杖(カーディナルワンド)』!」


深紅の杖(カーディナルワンド)』が私のスタンド名。
アヴドゥルさんにつけて貰ったオリジナルの。
ふふふ、と頬を緩めているとアヴドゥルさんはカードをしまった。

そして突然マジシャンズレッドを出した。


も出してみなさい」
「え、と……まだ自分の意思で出せないんです」


偉そうにスタンド名を付けてもらったくせに、私の意志でスタンドを出したことはない。
なんだか気恥ずかしさと申し訳なさで俯いてしまう。


「牢屋でも言ったがスタンドとはパワーある像。君が心の中で強く念じるんだ」
「強く……念じる」


スタンドを持っているのに使えないなんて話聞いた事ない。
『矢』で能力を得た人たちも使いこなせたんだから、きっと私にもできる。
そう自分に言い聞かせて目蓋を閉じ、強く念じる。


これから私はどうしたいか。
それらを叶えるために貴方の力が必要なのだと。
だから出てきてほしいと望む。


ッ出たぞ!」


アヴドゥルさんの声を合図に目蓋を開け、深紅の杖を向き合う。
相変わらず白い毛並は綺麗で艶めいている。
そして猩々緋色の目に私を写す。


私は声が届くか良くわからないが、頭を撫でながら呟く。


「これからよろしくね、カーディナルワンド」


鼻をヒクヒクさせる。
まるで本当の兎みたいだなあと思い、思わず人参を食べさせたくなった。



「上出来だ、。まだ自分ではコントロール出来ないかも知れないが、鍛錬しだいでどうにでもなる」
「はい!ありがとうございます!!」

兎を抱えて深々とお辞儀をする。
アヴドゥルさんは気を楽にしていい、と私の分の日本茶を注いでくれた。


「君には強い意志を感じる。 ジョースターさん達とはまた違った意志をだ。
 これから君が、が何を成し遂げたいのかは分からないが……。
 タロットによって導き出された暗示は、物事の始まりだ」

「始まり……なんかカッコいいですね!」

笑いながら言うとアヴドゥルさんはお茶をすすりながらそうだな、相槌を打つ。
適当にではなくきちんと考えた上での反応だ。
と、そこでホリィさんから声が掛かる。


ちゃーん、手伝ってぇ」
「あ!いっけない、忘れてた。アヴドゥルさん、失礼します!」
「ああ、行ってきなさい」


お茶を一気飲みしてホリィさんのところへと走っていく。
その後を私のスタンドの深紅の杖がついてくる。

このスタンドの力が、これから何かの役に立てばいいなあと思う。





















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2009/07/24