朝。目が覚めると、空条家での私の領地(部屋)に異変が起こっていた。 私はあまり使われていない客間の和室をお借りしたんだけど。 ってホリィさんが昨日のうちに綺麗に掃除してくれたから、新築の部屋ってくらいに綺麗なんだけどね。 その客間いっぱいに赤やら桃色やらの花が咲き乱れている。 布団の周りもクローゼットの周りも花、花、花……一面が花だらけだ。 メジャーな名前の花から名前も知らないような花まで多種咲いている。 あまりの量に香りは芳しいを通り越して、臭い。 そして突然の出来事にパニック状態になってしまう。 「どどど、どうしよう…」 和室…ってか家に勝手に花が咲くってどういう魔法ですか。 それにホリィさんにみられたらどう言い訳しよう。 彼女の事だ、驚きつつも きれーいなんて喜びそうだけど。 ともかく私自身が知らないことを説明するなんて到底無理だ。 だから考えることを諦めて、布団をたたむ。 ただバレないことだけを祈りつつ、着替えてご飯食べてから考えようと思う。 そこでふと今日の予定を思い出す。 「あ、そういえば今日は買出しに行くんだった」 この世界の父と母が学費と生活費と諸々をホリィさんに渡していったらしく、 今日は生活用品と学校に行くために必要なものを買いに行くのだ。 「まあ、その前に片付けなきゃいけないもの達もあるわけなんだけどね」 そう溜息を吐き、あたり一面に咲き乱れる花々をみる。 03 「おはようございますっ」 「あらちゃん。早いのね、おはよう」 にっこりと朝食の魚を焼きながら挨拶をしてくれた。 昨日はホリィさんの腕によりをかけた料理たちに感動したものだ。 それになんかご飯をこの三人で食べるって言うのが不思議な感じがした。 あ、お父さんの貞夫さんは不在だったので三人ね。 承太郎ってご飯は外で済ませてそうなイメージだったから新鮮だったというか。 その承太郎はまだ起きてきてないようで、姿が見えない。 あ、申し遅れた。私は(17)。ジョジョの世界に来てしまった一般人です。 初回から車に轢かれたり入院したりで何だかいい印象がない私ですがっ 精一杯ホリィさんの役に立てるよう頑張ります! 「お手伝いすることありますか?」 「きゃ〜っ!女の子はこれよね!この気の利かせ方よ〜ッ」 早速手伝いを催促してみると、ホリィさんは大いに喜びながら、この歳の男の子にはない感じよね! とか承太郎も承太郎で優しいけど!とかすごくテンションが高い。 なんだか声を掛けなきゃ話が進まないようなので一声。 「あのー…ホリィさん?」 「はっ…いけないわ。ごめんなさいね、お箸とお皿を並べてもらっていいかしら?」 「了解しましたっ」 食器棚の前に立ち、箸とお皿の場所は と聞こうとした時に大きな手が横切った。 学ランを着ていてガッチリと体躯のいい、つまり承太郎の手だ。 承太郎は食器棚の引き出しを手前に引くと、そこを指差して呟く。 「箸。皿はここな」 「あ、おはよう。…あと、ありがとう!」 なんか、初期の承太郎とは思えないくらいに優しいんだけど。 まあ何も知らない居候にものを教えてるだけかもしれないけど、想像していた承太郎なら 聞かれない限り自分からは動かなそうな気がしたから。 実はもうエジプトツアー終わったとか?ちっちゃい承太郎を見たかったのにっ 悔しさのあまり ううーと唸ると、承太郎が変な物を見るような目で見てきた。 「あら承太郎。お休みなのに早いのね」 ホリィさんが何か含みを持って笑いながら言った。 そして三人分の味噌汁をテーブルに運ぶ。 そこに承太郎は欠伸を一回して、ホリィさんにくって掛かる。 「買い物に付いてってやれって言ったのはお前だろーがッ」 「だって教科書とか重いじゃなーい。ちゃんに持たせるの?」 「……」 ホリィさんとの会話中にチラリと私の腕を見た。 そういや骨折してたんだった、と思い出した。 ギプスで固定された私の腕。 突然車に轢かれたあの感覚を思い出すと、今でも身震いする。 「……おい」 「……」 「おい」 「ん、もしかして私に言ってる?」 最初よりも強く呼ばれて、思わず承太郎をみる。 承太郎はなるべく目を合わせたくないのか、学帽のつばをつかむ。 いやいや、家に居るときぐらい帽子取りなよ。 若いうちに禿げちゃう姿を目にしたくなんかないしね。 承太郎は椅子に腰掛けていて、お皿におかずの筑前煮を盛りつける。 ああ承太郎が筑前煮を食すのね!!!! 筑前煮を口に運び、もぐもぐと口を動かしながら私に向かって手を差し伸べる。 その手を掴めと?と思ったがすぐさま一言だけ言う。 「飯」 用事はご飯欲しいだけか。 ホリィさんの性格上言われればよそってあげたんだろうな。 将来の姿が目に浮かぶような亭主関白的な雰囲気がでている。 ん?この場合は私=ホリィさんみたいなポジション? いやむしろこれは 私=お嫁さん と考えて新婚のやりとりと思えば…! などと空想を膨らます。良いッ 「って呼ばなきゃよそってあげない」 「……」 意味はないが、ただ働きはごめんなので笑いながら言う。 承太郎はというとムスッとした表情で私を見る。 そんな私達を見ながらホリィさんがクスクスと笑う。 「ふふふ……」 「おい、飯」 承太郎は今度は私ではなくホリィさんに言った。 ホリィさんはにこにこしながらご飯を茶碗に盛り付ける。 それを優しく承太郎に手渡す。それから私にも。 「はい、ちゃんのぶん」 「あ、ありがとうございます」 「……やれやれだぜ」 なんだこのタイミングは。 会話に入ってくるだけ仲良くなったと捕らえていいのか? ともかく私はホリィさんの手作り朝ごはんを頬張った。 ちなみに今日の献立は、ご飯・味噌汁・焼き魚(紅鮭)・筑前煮・その他のおかずだ。 私は筑前煮を取り分け、鮭や筑前煮を口に運ぶ。 鮭は程よく塩味がきいてておいしいし、筑前煮も鶏肉が柔らかくておいしい。 「ホリィさんっ!おいしいですぅぅ。ギプス取れたら作り方教えてください!」 「あらぁ嬉しいっ!喜んで教えるわ。承太郎ったら何も言わないんだものー」 「……まずい飯なんか食うかよ」 言い方はあれだけど承太郎もおいしいと思ってて良かった。 そんなこんなで朝から茶碗三杯の米を平らげ、私は満足だ。 ホリィさんの和食はとってもとってもおいしかった。 ご飯を食べ支度をしに部屋に戻る前の廊下で“やつら”の存在を思い出した。 思い出すのは部屋一面の突然生えてきた大量の花たち。 何も考えが思い浮かばず、恐る恐る襖を開けてみる。 すると。 「あれ……?」 そこに大量に生えていた花々たちは消えていた。 花びら一枚として落ちていない。 あの主張の激しい芳しい香りは薄っすらと香る程度だった。 前にもこんなことがあった…入院中のテレビ。 あの時は何だか眠くて気にしなかったけど、さすがに気味悪く思えてきた。 突然現れ消えたのだから当然なのだが、恐怖を感じる。 だがしかし、承太郎を待たせるわけにはいかないので着替える。 部屋の中にある引越し用のダンボールの中には両親が送ったと思われる私の服が入っていた。 その中からラフな感じにワンピとレギンスを選び、服があるなら履物もあるはず とさらに漁る。 服に合うパンプスを探し当て、玄関に寄りながらリビングへ戻る。 テレビや花の事を考えつつも支度を済ませてリビングに行くと承太郎がいた。 やっぱり学ランのままだった。逆に私服が想像できないや。 「……何にやけてやがる」 「あ、ごめん。じゃあ今日は道案内とかお願いしますっ ……てか今日学校は?」 「今日は休日だ、馬鹿。さっきもおふくろが言ってたじゃねェーか」 「なら良かった!ささっ行こう!」 不安がなくなってほっと胸を撫で下ろし、承太郎の腕を引く。 そこにホリィさんがひょっこり現れて承太郎に何かを渡す。 「ホリィさん!行ってきまーす」 「無理しないのよ?承太郎、ちゃんをお願いね」 「……」 承太郎は何も言わずに、首を縦に振った。 そして私達はホリィさんに見送られながら空条家を出て行った。 「近くから行くと、制服から買いに行くか……」 「承太郎ってば面倒臭そうだねー」 「当たり前だろーが」 承太郎は辺りを見回しながら言う。 言葉はつっけんどんだが店を探してくれているあたり、優しい性格なのがよくわかる。 店を見つけたらしく、こっちだ と先を歩きはじめる。 「承太郎と私は仲良かったの?」 「ああ?」 「記憶無いからさ、どうだったのかなーって」 制服を売っているお店の中に入りながら尋ねる。 承太郎の眉間に少し皺が寄る。考えてるからかな? 「……数回会ったぐらいだ」 「遊んだりした?」 「小せぇ頃だからな」 「そっか!…あ、あそこだよね?ちょっと買ってくる!」 制服売り場まで行って店員さんに声を掛けに行く。 暫く話しているうちに在庫で済むようなので、その場で買うことにした。 ……あれ、財布持ってないぞ。 私は承太郎に助けを求めるが、承太郎も居ない。 頼みの綱が切れ、こんな時に携帯が使えれば…と心底悔やむ。 店員さんに事情を説明し訝しげな視線を向けられながらも、承太郎を探しに行く。 そう広くない店内なので、あんな大柄の男が歩いていればすぐ見付かるはず。 買い物客に何度もチラ見されながらも必死に探す。 一人になった不安から、ありえないことを考えてしまう。 承太郎が私を置いて帰っちゃった、とか……。 マイナスな気分になると忘れてた腕の痛みが甦ってくる。 首を横に振り、悪い考えを払拭する。 「……見付けた!」 案の定大柄な体つきと学ランを着用していたお陰で見付かった。 承太郎は店内の本屋居た。しかも自分は本を買ってるし。 必死な顔をして自分を見てくる女(私)を見て若干引きながらも一言。 「何やってんだ」 「承太郎ー…私お金忘れちゃった!」 「金……」 そういえば、と思わせる素振りを見せる。 そして柄でもない可愛らしいがま口の財布を取り出す。 さらにその財布を私の前に突き出してきた。 「?えと……何これ」 「お前の両親が渡してった金の一部。あいつが渡しとけって」 あいつ…ってのはホリィさんと解釈していいんだろう。 一瞬でもこの可愛らしいがま口の財布が、承太郎のだと思った私が馬鹿だった。 承太郎は買った本を指差し、これもと言った。 「学校の教科書取り扱ってる店だったから買っといたぜ」 「じょ…承太郎…」 「……制服買ってこい」 キャラじゃないくらいの彼の優しさに心がきゅん、となった。 なんだかつっけんどんな感じにもきゅんときた。だから軽く腕に抱き付いた。 「ありがとう、ありがとーっ!」 「うっとおしいッひっつくな!!」 一通りの買い物を済ませたが、まだ昼前だった。 休日なだけあって辺りはカップルやら家族連れやらで混み合っている。 そんな中、貴重な休日を返上して(させられて)買い物に付き合ってくれた承太郎。 だから私はそんな承太郎にお礼も兼ねて、奢ろうと思った。 好きな店でいいよ、と言うと黙って歩き出したから、ただそれに付いて行った。 するとそこは。 「マ●クかよッ」 地方によってはマ●ドとも言うそうですが。 そこは全国に必ずある有名なファーストフード店の王道的存在でした。 そんな私のツッコミをよそに承太郎はさっさと店内へ進んでいく。 そして私を省みずに自分だけ注文を済ませてしまう空気読まない承太郎。 「まっ、待って。メガマ●クとチーズバーガーとポテトのMとオレンジジュース一つ」 昼時で注文多かった所為か席まで運んで貰えるらしい。 マスコットキャラのピエロが映っている札的な物を受け取り、承太郎の隣に座る。 承太郎は先に食べていた。 「もう、折角お礼に奢ろうとしたのに」 「女に払わせてたまるか」 ふん、と鼻を鳴らす。 自分の財布もちゃんと持ってきてたんだね、えらい。 なんて感心していると店員さんが配膳してくれた。 「わーい。いっただっきまーす」 私はメガサイズなそれを大口を開けて頬張る。 久々に食べたけど、うまい。 「……女じゃねえ……」 「お腹空いてるのに見栄張るなんて馬鹿みたいじゃん。 だから私は正直に食べるのです。もぐもぐ」 食べにくいので顔は汚くなるが、空腹には耐えられんのです。 「ほら、承太郎もポテト食べて?」 「……」 返事はしなくても黙って食べてくれた。 傍からみたら私らカップルに見えるかなーなんて思ってみたり。 このままイチャイチャ出来たらなあ……はあはあ。 なんて考えるとニヤニヤしちゃうけどね! 「……鏡見たほうがいいぞ」 「へ?」 「すげぇ顔」 メガなヤツ食ってますからそりゃあ顔中油だらけでしょうけどな。 怒りのあまり承太郎の唇にポテトの油でも塗ったくってやろうかと思った。 だけどスタプラさんのオラオラ喰らいたくないから大人しくしておこう。 「人の顔見ながらにやにやしやがって…」 「あ、そっちね」 なんだ と安心する。 油だらけの顔がやばいのかと思った。 ふとまた承太郎を見ると、ハンバーガーを頬張っていた。 なんかなんかなんか!物凄く貴重な瞬間に思えてにやにやしてしまう。 「だから気色わりぃんだよ」 「いてっ」 頭を拳ゲンコツで殴られた。優しくだけどね。 なんかカップルがいちゃついてるみたいだっ あれだよね、彼女が何か言ってさ、彼氏が 何言ってんだよコ・イ・ツって小突くみたいな! 流石にそれは時代を感じるか。ジェネレーションギャップ! ともかくこの穏やかな空気に包まれ、私はチーズバーガーを頬張る。 承太郎かわいいよ承太郎。 この時間がいつまでも続けばいいのになあとオレンジジュースをすする。 そんな平和なひと時に良くありそうな展開が訪れる。 BACK<<★>>NEXT 2009/06/21 |