昨日は雨が降った所為で、今日はぬかるんだ道を歩く羽目になりそうだ。 それでも昨日たまたま洞穴を見つけて雨をしのげただけでも幸運なんだがな。 洞穴を見つけたのはだったな。スタンド使って作ったのか?……やりかねねェな。 「一晩で晴れて良かったね!」 『お腹空いたー。ジョセフー、近い村まであとどれくらいー?』 「うーむ。恐らくもうすぐだな」 このハイテンション組は、相変わらず朝から騒がしい。 は朝日(洞穴の入り口)に向かって走り出す。 深紅の杖はジジイの周りの楽しそうに駆け、ジジイは地図を片手に唸る。 その声に寝ていたポルナレフが目を覚まして花京院に状況説明を乞う。 「次の村までのはどれくらいか話してたみたいだよ」 「ふあー……それだけでこんなに騒がしいのかァ」 元気だな、と言うポルナレフに俺も同感だ。 これから歩くというのに、最初からこんなにテンション高いと後から俺に泣きつくのがだ。 そこに焚き木の後始末を行いながらアヴドゥルが促すように言う。 「まあ取り敢えず行きましょう、ジョースターさん。 歩いていればいずれ着くでしょう」 一足先に洞穴の外に出たは、うえー、と情けない声を上げた。 おそらくこの泥濘で確実に靴を汚す羽目になると理解したからだろう。 番外編:絆創膏 「うあー、ぬかるんでて気持ち悪いよー。 てか泥水が靴に染み込んで……ぐしょぐしょ」 この不快感はきっとディオに唇をズキュゥゥンと奪われたエリナの気持ちが分かるくらいだ。 さらに不快感増すから泥水ですすがないけどね。 革靴ならもう少し水を防げたかも知れないけれども、エナメルじゃないスニーカーだからなあ。 不快感をぐっと抑えもくもくと歩き続けるも、雨が降った後の湿気と 草木から降り注ぐ水滴に少しずつストレスゲージのメーターが上がるのがわかる。 小さい頃は靴をずぶ濡れにしても楽しく駆け回るくらいの気持ちだったけど、この状態で濡らして汚して後で洗うのも面倒だ。 そんな横着な気持ちと単純にこの湿気が鬱陶しいのも原因のひとつなんだろうけど。 『、自然に対して怒らないでよ。……て、ちょっ、何し』 「この鬱陶しさは半端じゃ、ない! これで陽が射してなかったらこの植物を全部抹消してるところだよ」 「おー飛んでったな。それじゃあ環境破壊でこの国の人に捕まっちまうぜ?」 晴らしようのないイライラを兎を掴んで投げ飛ばすことで解消した。 兎は私に対してばかー!と可愛らしく叫び離れた所で軽やかに着地した。 そしてそのままジョセフさんの肩の上に乗った。多分私の愚痴を言うんだろう。 それにしてもポルにしてはまともなことを言うもんだから、ぐっと言葉を詰まらせる。 いやポルは私達よりも大人だからまともで当たり前なのか。 「大丈夫。こんなか弱そうな女の子だもん、疑われないよ」 「そーしたら俺らが疑われるじゃねえかよ!」 「私に害をなさないなら良い!」 グッと親指を立てるとポルが仲間を売りやがった!とオーバーリアクションをとる。 西洋の人はリアクションが大きいとか言うけど、ポルのリアクションは私の想像を超えていた。 そのリアクションの大きさと変顔に私は爆笑する。 と、ふと前を歩く花京院と承太郎が驚いたように振り返る。 「吃驚するじゃないか。何をそんなに笑ってるんだい?」 「ポ……ポルのリアクションの大きさと変顔が……ははっ、おかしーっ!」 「失礼だぜ!この顔のどこがおかしいんだよッ」 そう言って先程の変な顔をするポルナレフ。 その顔を見た花京院も腹を抱えて笑う。 承太郎も口端を上げているだけだが笑っている。 そこで花京院がポルの顔をいじくると、更に楽しい顔になり笑いすぎて腹が痛くなった。 承太郎は笑いながら学帽を押さえ、踵を返し先に歩いていく。 笑いすぎて涙目になった目で承太郎を見ると、私の数倍はある太さの木が倒れようとしている。 丁度承太郎の斜め後ろなだけに、気付きにくいのだろうか。 気付いたのは私だけだったのか、それとも誰か気付いてたかもしれない。 だけど私は走って彼を突き飛ばす。 「じょ、承た……!危ない!」 突き飛ばされた承太郎は、振り返り目を瞠った。 私の声に深紅の杖が反応し、こちらに向かってくる。 だけどきっと間に合わないだろうな、と直感的に思う。 木が倒れてくるのがスローモーションのように遅く見えた。 その中で私はようやく気付いた。 「……承太郎ならこんな木、スタンドでどうにか出来たな」 小さく呟き嘲笑する。勿論自分をだ。 自分でも驚くほどに倒木に対する恐怖心はあっても、平常心を保っていた。 しかし平常心の中でも頭が真っ白になり、そこから私の見ている映像が途切れた。 夢を見ていた。この世界に来るきっかけとなった事故の夢。 車にはねられ、宙を舞う時間は永遠みたいに長く感じた。 痛みなんか頭になくて、ただこの浮遊感に遊ばれているみたいな気がした。 しかし着地と同時に現実に引き戻されたかのように、全身を一気に痛みが駆け渡る。 「い、た……っ!」 夢の中で声をあげた気がしたのだが、ここは現実だったらしい。 夢から逃れた私は咄嗟に上半身を起こしていた。 よく見てみれば私は清潔なシーツが敷かれたベッドで眠っていたようだ。 目を擦ろうと腕を動かすと激痛が走った。 「あああ!いってぇぇえ」 「……気が付いたか」 誰も居ないと思い声を上げたのだが、隣のベッドに承太郎が腰掛けていた。 相変わらずの学帽と学ラン姿にやっぱり承太郎だ、なんて呟いたら無視された。 私の身体の至る所に絆創膏やら湿布やら包帯やらの処置が施されていて、 まるで重症患者みたいな状態になっている。 しかし実際は擦り傷や打ち身程度の怪我だろうと痛みから推測する。 「全身痛いんだけど!」 「お前何やってやがんだ」 こういう時はやっぱり会話がかみ合わない。 いつかまもとに会話のキャッチボールが出来るようになりたい。 ここはもう私が折れるしか会話は成り立たないと思い、何が?と尋ねる。 「何がじゃねえ!スタンド使わねェで倒木の前に立つなんざ自殺行為だろーがッ!」 「いや、スタンド離れてたし、なんか気が動転して……承太郎が危ないと思ったんだよ。 だけどね、よく考えたら承太郎ならなんとか出来たなーって……」 言いたいことがまとまらず、しどろもどろになり身振り手振りでどうにか伝えようとする。 しっかし身体を動かすと本当に痛いな、この怪我。 承太郎は無愛想で不機嫌そうな顔をさらにしかめて言う。 「成長しない無鉄砲っぷりだな」 「……ぐ。否めません」 「ギリギリだろーが気付けば俺は自分のスタンドでどうにか出来る」 「う……」 いい負けて口を噤む。 無鉄砲なのは確かだし今までも指摘されてるんだけど直らない。 叱られた犬のように大人しくしていると、承太郎は鼻を鳴らして学帽を下げる。 「ったく余計なことしやがって……」 「よ、余計なことって……」 「……女に護られちゃあ格好悪ィじゃねーか。だが一応言っとくぜ。助かった」 承太郎のその言葉に一気に気分が高まる。 まるで、そう、叱られた後に撫でられた犬みたいな。 “助かった”という言葉を“役立ったぜ”と自己解釈し頬が緩む。あくまで自己解釈。 そこでベッドから跳ね起き、痛みなんかどうでも良く思えて隣のベッドにダイブする。 「じょーたろーっ!このツンデレめっ」 「なっ、うっとおしい!」 危ねえだろ、と怒鳴られながらも承太郎の頭を小突く。 と、その時ノックの後に扉が開いた。 「ただいま。あ、、気付いたようだね。具合はどうだい?」 「無事かオイ。ジョセフのジイさんがワンワン泣きながら心配してたぜェ!」 「ポルナレフ余計なこと言うな!泣いとらんだろ!」 「、何か飲むか?」 各々買い物袋を掲げて入ってきた。てかノックの意味ないよ。 ご飯が出ない宿もあるけど、多分この人たちの場合は買ってきたのはお菓子やビールやつまみなどだ。 冷静に考えるとこの一行(主にポルとジョセフさん)はキャラが濃すぎて騒がしい。 そうか。冷静な承太郎が居ることでバランスを保っているんだな。 私は承太郎の隣に腰を下ろし、正座をして謝る。所謂土下座ね。 「心配掛けてごめんなさい。体中のあちこち痛いけど元気だよ! あ、アヴドゥルさん飲み物欲しいです。 それで、私は木が倒れてきた後どうなったんですか?」 「オレンジジュースでいいかな、はい。承太郎から聞いてないのか?」 私はオレンジジュースを受け取りながら、聞いてないです、と言うとアヴドゥルさんは説明し始めてくれた。 皆は買い物袋をあさり、食べ物やら飲み物やらを口にする。 「あの後、倒木にぶつかり気を失ったようだが、 倒木に押しつぶされる前に承太郎が木を殴り、深紅の杖が木を消したんだ。 多分が負っている怪我は、ぶつかったときに負ったんだろう。 その後はなるべく急いでここまで着たんだ」 「なるほど……って私の所為で一日足止め食らったわけですよね? うああごめんなさい!」 説明を聞いてようやく肝心なことを思い出した。 謝る私にアヴドゥルさんは、旅路は順調だから気にすることはない、と慰めてくれた。 でも本当に申し訳ないですごめんなさい、と謝罪する。と、そこに兎が現れる。 『ー!死んでなくて良かった、僕すっごく心配したんだから!』 「あ、あんた今までどこに居たのっ?」 『ずっと一緒に居たよ!気を利かせて出てこなかったんだっ』 「意味分からんわ!」 兎が抱きついて悲しそうな声で言うもんだから、申し訳なく思えた。 だがしかし本体を離れたのはお前だろう、とも言いたくなった。堪えました。 そして良く分からない気を利かせたことに対し、褒めてと言わんばかりに誇らしげなので額を小突いてやった。 あいた、と可愛らしい声を上げた後に、何か思い出したように直立する。 耳元に両手(失礼、前足)を当てて小さな声で囁く。 『あ、そうだ。承太郎がね、の手当てしてくれたんだよ』 「えっ……」 『絆創膏貼っただけだけどね。他はジョセフがやったけど』 なーんだ、と思ったけどあの承太郎が絆創膏を貼ってくれただけでも十分嬉しかった。 大木に潰されそうになって痛い思いしたけど、最後にちょっぴり嬉しくなった。 私は兎をきゅっと抱き締める。たぶん今にやにやしてる。 そして絆創膏は怪我が治っても絶対に剥がさないと誓った、そんな一日でした。 ★おまけ 「おいジジイ俺にもビールよこせ」 「ん?ああ、ホレ」 「ジョースターさん、日本の法律では未成年の飲酒は禁止されてますよ。 承太郎も……というか変な飲み方しないでくれ」 ジョセフさんから受け取ったビールの缶の下に、穴を開けて飲む承太郎。 それを額に手を当てたしなめる花京院。ちなみにポルは普通にごっくごくと喉を鳴らして飲んでいる。 いや、成人してるしなんも問題ないんだけど、文句付けたくなる。だが更に文句を付けたいことがある。 「私は酎ハイか日本酒しか飲まん!」 「誰も勧めてねェぞー」 「そもそも売ってるのかすら危ういね」 ポルが二缶めに手を掛け、ぷしゅっとプルタブを倒す。 すると普通じゃないくらいに泡が吹き出す。驚いて目を瞠ると、花京院が腹を抱えて笑う。 もしや、と次に出てくる言葉を待つ。 「それ、さっき僕が振っておいたのさ」 「てめっ!花京院!」 ポルは缶を花京院に向け、噴出すビールを浴びせる。 スポーツ選手の勝利のシャンパンの掛け合いみたいなね。 何はともかく、この部屋が悲惨なことになりそうだ。 一方的に掛けているポルには後々責任をとって片づけを任せようと思う。 BACK<<★ A様のリクエストです! 看病する承太郎になったかは曖昧な所ですが; 部屋に居たのはが心配だったからです お待たせした上に表現力の乏しいのですがお気に召して頂ければ幸いです! 2009/08/30 |